76「学ぶこと」クランリーテ


「わたしの未分類魔法を……クラリーちゃんが?」

「うん。使えるようになりたい」


 立ち止まり、向かい合う。

 驚いた顔をしていたけど、私が真剣な目で見つめていると、アイリンも真面目な顔になっていく。


「それは構わないけど、どうしたの? 急に」

「……こないだのことで、ちょっと思うところがあって」

「こないだって、ヨリちゃんを助ける時のこと?」

「よくわかったね。ま、それくらいしかないか」

「ん~それもあるけど、あの後クラリーちゃん、なにか考え込んでるみたいだったから。気になってたんだよ~」

「……え? うそ、そんな風に見えた?」


 いや、確かに考え込んでいたかもしれないけど……まさかバレていたとは。


「それにね、わたしもたぶん同じだから」

「アイリンも?」

「うん。ね、クラリーちゃんはどんなことを考えてたの?」

「私は……。あの時、もっといい解決方法があったんじゃないかって。あんな派手な魔法を使わなくても、別の方法で馬車を止められたんじゃないかな」

「クラリーちゃん! やっぱりわたしと同じ!」

「え……えぇ?」

「わたしもね、騒ぎにしない方法があったんじゃないかなーって。だから新しい魔法を作ったりしてたんだよ~」

「あ、新しい魔法を?」


 アイリンが同じことを考えていたのにも驚きだったけど、そこからさらに新しい魔法を作った?


「どんな魔法なの!?」

「わっ、落ち着いてクラリーちゃん。えっとね……ここで待ってて!」

「あ、うん?」


 アイリンは道の先を駆けて行き、駆けて行き……ようやく立ち止まる。まさかそこから大声を? この辺り結構民家があるけど大丈夫?


 遠くでよく見えないけど、アイリンがなにか魔法を使う。口の前に、黒いなにかが……。


『どう? クラリーちゃん。聞こえた?』


「う、うわ? 聞こえた……」


 通話魔法とは違う。普通に、耳から聞こえた。

 大声を出したわけでもないのに、どうやってここに?


『聞こえてたら手を振って~』


「こっちの返事は聞こえてないんだ……」


 返事のできるボイスボックスとも違うようだ。

 私はアイリンに向かって手をぶんぶんと振る。するとアイリンは走って戻ってきた。


「やった、大成功~!」

「な、なんだったの? 今の魔法!」

「こうやってね、声を塊にして飛ばしたんだよ~」


 アイリンは口元に手を当てて、魔法を近くで見せてくれる。

 細長い筒。黒い縦笛みたいだ。


「この魔法で声を飛ばすと、聞かせたい相手にだけ声を届けられるんだ」

「なっ……え、それって通話魔法とは違うの?」

「うん。あくまで魔法で飛ばしてるだけだから。真っ直ぐにしか飛ばせないし、間に壁とかあったらダメ、途中で他の人に当たっちゃうとその人に声が届いちゃう」

「あ、そういうこと……?」

「でもね、有効な距離はすっごく長いんだよ! こないだの大声よりももっと遠くまで飛ばせるの! 壁とかなければだけどね」

「なるほど……。これなら、馬車の中に届けることもできた?」

「馬車の幌くらいなら、当たれば中の人にも聞こえるはずだよ!」


 あの時、人通りは多かったけど馬車の通る道はみんな避けていた。少し高いところからこの魔法を使えば一直線。当てることができたはず。


「すごいな……。さすがだよ、アイリン」


 アイリンはあの時の反省をもとに、すでに新しい魔法を作っていた。

 私も、負けてられない。


「あの時の私はアレしか思いつかなかった。でももし未分類魔法が使えていたら、違う対応ができたかもしれない」


 結局同じ魔法しか思い浮かばなかったとしても。選択肢は増えていたはずだ。


「だから決めたんだ。私も未分類魔法を使えるようになろうって。……まず、今の魔法を教えてもらえないかな?」

「クラリーちゃん……わかった! よーっし、じゃあ特訓だー! ニィミ町にいる間に使えるようになってもらうよ!」

「うん、お願い。絶対に使えるようになるから!」



                  *



 その後私たちは夜遅くまで特訓して……アイリンのお母さんに怒られた。

 アイリンの部屋に用意してもらった簡易ベッドで寝ることになったんだけど、これ、みんな来てたらどうするつもりだったんだろう。寝る場所足りなかったよね?


 さすがに私も疲れていたみたいで、ぐっすり眠ってしまい。

 朝にシャワーを借りて汗を流し(寝ぼけたアイリンも一緒に入ってきた)、洗濯してもらった昨日の服に着替えた。


 本当はそれでもう帰るつもりだったんだけど、特訓の続きをして……結局昼過ぎまでかかってしまい、夕方前の馬車に乗って帰ることになった。



「遅くまでお世話になりました」

「いいのよ。気を付けてね。荷物大丈夫? 持たせすぎた?」

「い、いえ。大丈夫です、ありがとうございます」


 トマト、キュウリ、ピーマンにナス……たくさん貰ってしまった。さすがにちょっと重いけど顔に出てしまわないように気を付ける。


「ほらアイリン、送ってあげな」

「わかってるよ~。いこ、クラリーちゃん」


 荷物を半分アイリンに持ってもらって、町の入口まで歩いていく。


「ニィミ町、やっぱりいいところだね。涼しい風が吹くし、静かだし。普段城下町にいるからかな。落ち着くよ」

「えへへ~、でしょでしょ? そう言ってもらえると嬉しいよ~。ありがと!」

「なんか、町の代表みたいにお礼言われた」

「それはそうだよ。自分の町が褒められたんだからね!」


 そんな話をしながら歩いて、入口に辿り着くともう馬車が到着していた。私は慌てて乗り込む。


「間に合った……。それじゃ、アイリン」

「うん! 気を付けてね!」


 最後はバタバタしてしまって、素っ気ない感じになってしまった。

 私は幌の窓をめくって、顔を出して手を振る。すると、


「――アイリン?」


『またねー! クラリーちゃん!』


 黒い笛から声を飛ばし、ピンポイントで声を届ける。

 ボイススナイプ。


 窓を開けるのをわかっていたのか、アイリンが魔法を飛ばしてくれた。

 私は大きく手を振ってるアイリンに向かって、


「――――」


 ボイススナイプで声を飛ばして返事をする。

 満面の笑みを浮かべたアイリンに小さく手を振って、私は椅子に座り直した。


「……ふふっ」


 だめだ、他にも乗っている人がいるのに。笑いを堪えられない。


 私は今、未分類魔法を学ぶことを楽しんでる――。



 アイリン。声、届いたよね?


『楽しかったよ。またね、アイリン』




未分類魔法クラフト部

クラフト11「ニィミ町にいらっしゃい!」

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