クラフト11 ニィミ町にいらっしゃい!

72「出発、ニィミ町」クランリーテ


 城下町の南門に、バスの駅がある。

 ここは街の入口でもあり、門の外も色々な出店があって賑やかな場所だ。

 バスはここからラワ王国方面行きと、アカサ王国行きが出ている。

 風魔法を使った高速長距離移動を可能にしたバスは、ラワの城下町まで三日、アカサの城下町は季節によるけど三、四日。いくつかの町を経由して旅をする。

 馬車で行こうとすればこれの4倍ほどの日程がかかるのだから、とんでもなく速くなった。

 アカサ王国を中心に開発は続いていて、いつかは一日かからずに国を行き来できるようにしたいらしいけど、さすがに無理じゃないかなぁ。


 七月の終わり、まだ暑さがマシな朝のうちに駅にやってきた私は、バスを眺めながらその脇に停められた幌馬車を目指す。

 今日の目的地はバスが通らないニィミ町。

 私はひとり、アイリンの家にお邪魔しに行くことになっていた。


「アイリンと二人で会うのも、なんか久しぶりな気がする」


 最近はもうずっと、クラフト部のメンバーが誰かしら一緒にいた。

 なのに今回、珍しく私だけ日帰りでニィミ町に行くことになったのは――。


 私は馬車に乗り込みながら、昨日のテレフォリングの会話を思い出す。



                  *



「ね、今度みんなニィミ町に遊びに来てよ!」

「ニィミ町? アイリンの家にってこと?」

「おー、それいいねー!」

「そういえばニィミ町って行ったことないのよね」

「私はありますよ。だいぶ前だけど、お母さんと一緒に」

「えっ、ナナシュちゃんほんと!? もしかしたら会ってたのかな~」

「ふふ、そうだね。もしかしたら」

「それでアイリン、行くとしたらいつが都合いいの?」

「ん~、明日でもいいよ!」

「明日!? ……まぁ特に用事はないし、私もアイリンが住んでる町、興味あるからいいけど……」

「やったっ」

「明日……。あたしたちはちょっと無理ね」

「うぅ、サキちゃんダメかぁ……。たち、ってことは」

「ボクもダメなんだー。実は久々に両親が家に揃っててさ。サキの家と一緒にご飯食べようって話しになってて」

「チルの家、だいたいどっちかが探検で家を空けてるのよ」

「へぇ、両親が探検家ってやっぱり大変なんだね」

「もう慣れちゃったけどねー」

「うーん、それじゃしょうがないね~。ナナシュちゃんはどうかな?」

「はうっ……ごめんなさい、私も明日は用事があって無理なの」

「がーん、ナナシュちゃんもかぁ。じゃあ明日はクラリーちゃんだけだね」

「……え?」

「待ってるね! 南門にニィミ町行きの馬車があるから!」

「あ、うん。わかった」



                  *



 ……みんなが空いてる日にずらすと思ったんだけど、流れで私ひとり行くことが決まってしまった。

 ま、いっか。ちょっとアイリンに話したいことがあったし。


 城下町を出た馬車は丘を越え大草原を走り、やがて大きな川にさしかかる。

 ここにはターヤ・ノルン橋という橋がかかっているんだけど、昔父さんが工事に携わっていたと言っていた。独り立ちする前の話みたいだけど。

 この橋のおかげでニィミ町との行き来がし易くなって、最近では向こうに住む人が増えているらしい。さすがにこの時間にニィミ町に向かう人は少なく、馬車に乗ってるのは私の他に女の人が一人だけだけど。


 橋を抜けると馬車は森の中に入る。太陽の光が木々に遮られて涼しくなった気がする。

 森と言っても道はきちんと舗装されていて、揺れもさっきまでと変わらなかった。


 ターヤ城下町から馬車に揺られて40分。

 森を抜けると、そこはニィミ町の入口だ。


「あ、クラリーちゃーん! 待ってたよー!」


 見ると、アイリンが大きく手を振っている。

 いつから待っていたんだろう。相変わらず元気だな。

 最後に会ってから一週間も経っていないのに、なんだか久しぶりな気がする。

 私は幌の窓からそっと手を振り返した。

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