68「白猫のヨリ」クランリーテ
劇場の裏口から出て、私たちは手分けして猫を探すことにした。
二人一組、その場の流れで組み合わせが決まったんだけど……。
アイリンとサキ。チルトとナナシュ。
そして私は、シンガーの子と並んで歩いていた。
……ちょっと緊張する。
「あの……クランリーテさんは、魔法学校の生徒さんですか?」
「えっ! あ、うん。みんなターヤ中央区高等魔法学校の一年生だよ。……ユミリアさん」
彼女の名前は、ユミリア・ユキヅキ。みんなと分かれる前に簡単に自己紹介……というか名前を教え合った程度で、それ以外のことはお互いなにも知らない。
「わたしもスツの街にある高等学校の一年生です。よかった、同い年なんですね」
「そういうことだね。じゃあ私のことはクラリーでいいよ。みんなそう呼んでるから」
「はい。わたしのこともユミリアで構いませんよ、クラリーさん」
そう言いながら、自分はさんを付ける。でも彼女の場合その話し方が似合っていて、私は素直に頷いた。
「それにしても猫かぁ……。実は私、あんまり見たことないんだ」
「そうなんですか?」
「うん。この辺り猫があんまりいないから」
ターヤ王国のど真ん中にこの城下町はあるんだけど、この辺りから南にかけて猫がほとんど生息していない。
北側、ナハマ山脈付近やアカサ王国にたくさんいるらしい。
「スツはとても猫が多いです。飼っている人も多いですよ」
「へぇ。城下町にも外から連れ帰って飼ってる人はいるんだけど、あんまり見かけないかな」
「猫は部屋飼いが多いのもあるかもしれません。クラリーさん、猫は……いいですよ。もふもふで……。うちのヨリもとっても毛並みのいい白猫なんです。可愛いし、撫でると気持ちがいい。私の癒しです」
手を合わせて恍惚の表情で語るユミリア。
よっぽど好きなんだな……。
「ユミリア。じゃあ、見付けたら撫でてもいい?」
「はい、もちろんです。是非撫でてあげてください。そしてクラリーさんも猫の魅力にハマってください」
あはは……ちょっと怖いけど、でも楽しみだな。
ユミリア、ヨリを溺愛しているみたいだし、早く見付けてあげなきゃ。
私はそっと右耳に付けたイヤリング――テレフォリングに手を当てる。
すでに誰かが発動済みで、通話魔法が繋がっていた。
『クラリーちゃんいいなぁ。ユミリアちゃんと楽しそうにお話ししてる~』
そんなアイリンの声が聞こえてきたけど、側にユミリアがいるから返事ができない。
……ユミリアと組むのがアイリンだったらすぐにバレてたかも。危ない危ない。
『ほらアイリン、文句言わないで探しなさいよ。……でもこの裏道にはいないわね。猫は狭いところが好きだから、この辺りだと思ったんだけど』
『へぇ~そうなんだ? サキちゃん物知り~。じゃあ表通りのチルちゃんたちと合流する?』
『そうね……でももう少し探してからにしましょ』
アイリンたちは劇場の裏側を探している。こっちも狭い路地を探しているけど、見付かりそうもない。どうしたものか……。
『あっ! みんなちょっと来て! 猫みつけた! 白い猫!」
『チル? どこで見付けたのよ!』
『劇場の正面入口です! 戻ってきてください!』
結局表通りを探していたチルトとナナシュが見付けたようだ。
私たちも劇場に戻ろう。
「……えっと、ユミリア。たぶんあまり遠くには行ってないと思うから、その……とにかく一旦戻ろう!」
「えっ? はい……そうですね、ヨリもこの辺りのことはわからないはずですから、劇場の近くを探すべきかもしれません」
「そう! そうだと思う。戻ろう!」
見付かったとは言えないからどう誘導したらいいか迷ってしまった。なんとかなってよかった……。
私たちは早足で劇場の正面に向かう。
――だけど。
『あぁー! 猫ちゃんだめだよ、あぶないよ!』
『チルちゃん、やっぱり魔剣を使って……あっ!』
『ちょっとチル?』
『ナナシュちゃん? どうしたの!?』
「……え? な、なにがあったの?」
「? どうしました、クラリーさん」
「あ、いや……その。む、向こうからチルトたちの声が聞こえた気がして! 猫が見付かったのかも。急ごう!」
「本当ですか? わかりました、行きましょう!」
そこの角を曲がれれば大通り、すぐに劇場だ。
聞くよりも見た方が早いはず。私は先に駆け出して大通りに出る。
飛び出すと同時に、目の前を馬車が走り去る。白い大きな幌。城に向かう魔法騎士団の馬車だ。っと、それを見ている場合じゃない。劇場の方を向くと……チルトとナナシュがこっちに走ってきていた。
「クラちゃーん! その馬車だよ! 上!」
「……えっ?」
ユミリアと一緒に振り返り、馬車を見上げると……。
「ヨリ……! うそ、どうして……」
白猫のヨリが、
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