66「ライブマジックショー」クランリーテ
ターヤ城下町中央劇場。
街の北側の区画、中央広場からすぐのところにある大きな劇場だ。
芝居や歌など、様々なショーが行われるため、街でもよく人が集まる場所。
公演は午後。昼過ぎに集合した私たちは、揃って中に入りエントランスへ。
昨日あのあと母さんに聞いてわかったんだけど、スツ劇団の公演チケット、そこそこの値段がする上にすぐに完売してしまうらしい。……ナナシュの家のお客さん、ありがたく観させていただきます。
「ふおぉ……わたし初めて中に入ったよ」
「私は何度かあるよ。スツ劇団の公演は初めてだけど」
「ボクらも来るの初めてだよねー、サキ」
「……そうね」
「私はお父さんとお母さんが芝居やライブマジックショーが好きだから、よく来ています」
「いいな~ナナシュちゃん。あ、もう入れるみたいだよ! いこう!」
奥の扉が開かれ、エントランスにいた人たちがぞろぞろとホールへ移動を始める。私たちもその流れに乗って観客席へ、チケットに書かれた席に並んで座った。
真ん中、やや後ろの見やすい席。……これはすごいチケットを頂いてしまったのでは?
もう一度心の中でありがとうございますと頭を下げる。
ショーが始まると私たちはステージに釘付けになった。
音楽に合わせて演者が魔法を繰り出す。炎が舞い、水がアーチを作り、咲いた花を風が客席まで届けてくれる。
四属性魔法を華麗に、鮮やかに。魅せるために昇華された演技と魔法。
実はアイリンと一緒にやった自由課題はライブマジックショーを参考にしていた。でも実際に見るプロの技は違う! 洗練された魔法の数々に私は感動しっぱなしだった。
前々からライブマジックショーの演者には興味があった。
やっぱり将来は魔法を使う職業に就きたいから。その選択肢の一つとして。
父さんのように魔法建設を学んで現場に立つのもいいけど、こんな風にステージで魔法を披露するのも面白そう。
あぁでも、こういう劇団はもっと小さい頃から入って練習するのかな? どうなんだろう?
他にも魔法を使う仕事はあるけど、私がやってみたいと思ったのはその二つと、それから……国に仕える魔法騎士。
もちろん、どの選択肢もマナ欠乏症のままでは難しい。
隣のアイリンをチラリと見る。
早く、未分類魔法でなんとかしなきゃね。
ステージでは踊りながら流れるように魔法を使う演舞や、派手な合同魔法で見る人を驚かせたり楽しいショーが続いていく。
そして終盤。真っ白なワンピースにベールを被った女の子が一人、ステージ中央に立った。線の細い子で、歳は私たちとそう変わらない。
彼女がスッと息を吸い込むと、
「ラ――ラララァ――♪」
伴奏もなく、アカペラで歌い出した。そして、ふわっと手を振ると……。
「あっ……」
そよ風と共に、草木の香りした。
たったそれだけで、私たちは劇場から草原に飛ばされた。
「ラララ――ララァ――♪」
私はいま草原の中に座って、彼女の歌を聴いている――。
もちろんそれは錯覚だけど、そう感じさせる力が歌と魔法に宿っていた。
「ラララァ……ラァ……」
雰囲気が変わった。見ると、彼女の周りが赤く照らされている。明るい歌声が徐々に静かで穏やかなものに。日が暮れて、夜が来ようとしているんだ。
「ラァ……ラァ……ララァ」
歌に合わせて、小さな炎が辺りに灯っていく。
僅かな灯りと共に、静かに静かに夜が更けていく。
寂しいけど、暖かみを感じる炎と歌。
やがてその炎も消えて真っ暗になる。歌声も止んでしまう。
静寂。呼吸も忘れて、彼女が立っていた場所をじっと見つめていると――――。
「ラーララーララーラ――!」
歌と同時にステージが明るくなる。客席も天井からの眩い光りで照らされた。
……夜明けが来たんだ。
「ラーララーラララー!」
荘厳な伴奏が流れだす。彼女は負けない声で力強く歌う。
朝日の眩しさ、頼もしさを。夜の明けることの安心感を。歌い上げていく。
「ラララ――ララァ……」
そして最後は静かに。音楽と共に締め括る。
彼女が一度ピンと背筋を伸ばして、頭を下げると――。
ワァァァァァ――!
大歓声と拍手。気が付くと、私たち五人とも立ち上がって拍手を送っていた。
「すごい……私、鳥肌立ったよ」
「わたしも! はぁ……感動しちゃったよ~」
盛大な拍手に女の子がもう一度お辞儀をして、舞台袖に下がる。だけど拍手はなかなか鳴り止まなかった。
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