第二部・夏休み編

クラフト10 スツ劇団のシンガー

65「夏休みの計画」クランリーテ


「あ~あ~、こほん。聞こえてるかな? クラリーちゃーん?」

「……うん。聞こえてる。アイリン、そっちは?」

「わっ! ほんとに聞こえた! バッチリ聞こえるよクラリーちゃん!」

「会話できちゃってるよ。すごいなこれ……」


 いま私は、家の自分の部屋に一人。

 アイリンもニィミ町の家にいる。

 宝石が淡い光を放っている、右耳のイヤリング――テレフォリング。

 未分類魔法の通話魔法。城下町とニィミ町間の遠距離会話が成功した。


 正直この距離は無理だろうと思っていたけど、学校で使った時と変わらない感じで会話ができている。


『世界にはマナが満ちてるから、たぶんものすごーーーく離れてても、魔法は繋がると思うんだ!』


 アイリンは自信満々にそう言ってたけど、さっきの驚きようからしてやっぱり不安はあったんだと思う。


「やったよ大成功だよ~!」

「うん、それに……」

「まったく、とんでもない魔法よね。なのにまだ秘密にしなきゃいけないなんて……」

「しょうがないよー。でもボクが遺跡探索に行くまでには完成させてよね、アイちゃん!」

「それにしても、なかなか慣れませんね。胸の辺りから声が響いてくるこの感じ……くすぐったいです」


 魔法はサキ、チルト、ナナシュとも繋がっていた。


 学期末試験が終わり、試験休みの後に終業式。

 私たちは試験休み中に、通話魔法に必要なテレフォリングを全員分作っていた。

 あまり時間は無かったけど、お手本となる完成品がある。魔法道具作成が得意なサキのおかげでなんとか夏休みに間に合った。

 終業式のあと解散して、夜に時間を決めて魔法を試そうという話になったのだ。


「えへへ、家にいるのにこうしてみんなと話せるって、いいなぁ」

「もうこれ完成でいいじゃない」

「だめだよーサキちゃん。テレフォリングの識別をできるようにしないと!」


 今のテレフォリングだと個別に魔法を接続することができない。全部のテレフォリングに繋がってしまう。だからこの魔法はまだ完成していない。

 確かにその通りではあって、私たちはアイリンの気の済むまで魔法を改良してもらうことに決めた。

 だからサキも冗談で言っただけ……いや、半分以上本音かな。


 でも言いたくなる気持ちもわかる。

 テレフォリングが識別できないから未完成。だけどこの五人で使う分には問題ないわけで。家にいながらみんなと話ができるなんて、とんでもなく便利だ。

 これを私たちだけで独占していていいの? と考えてしまう。


「そういえばさー。試験休みはテレフォリング作りで忙しかったけど、みんな夏休みどうするー?」

「確かに夏休みの話をする暇が無かったわね」

「あっ! わたし、みんなとどこか行きたい!」

「どこかって、アイリン行きたいところあるの?」

「みんなとならどこでもいいよ!」

「どこでもって……アイリンらしいわね。それなら、みんなで行き先の候補を出し合いましょ」

「あ、あのっ。ちょうどそのことで、みんなに話したいことがあるの」


 意外にも、最初に切り出したのはナナシュだった。

 側にいるわけでもないのに思わず首を向けそうになる。


「実は、ライブマジックショーのチケットが余っているんです」

「おぉー? ナナちゃんそれってもしかして中央劇場でやってるやつ?」


 ライブマジックショー。その名の通り、色んな魔法をステージで披露するショーだ。

 属性魔法の国ターヤでは特に人気があって、よく城下町の中央劇場で公演を行っている。


「うん。夏の間公演に来ている、スツ劇団だよ」

「すごい! ボク観てみたかったんだよねー」

「スツ劇団って有名なところじゃない……。どうしてチケットが余るのよ」

「実はうちのお得意様から頂いたんです。家族で行く予定だったのが、お子さんが熱を出して行けなくなってしまったみたいで……」

「うわぁ、それは残念だね。それでナナシュちゃんがチケットをもらったんだ?」

「でも待って、ナナシュ。それ私たちがもらっていいの? ナナシュの家族は?」

「ええと……実はね、クラリー。すでにお父さんが別の日の――明後日の公演のチケットを買ってあるの。だからこれは、友だちを誘いなさいって言ってくれて」

「あぁ、なるほど。それなら……」

「ふおおお! ありがとうナナシュちゃん! チケット、公演日はいつなの?」


 子供が熱を出して行けなくなったから譲ってもらった。

 だったらそんなに先のチケットではないはずだ。もしかして……。


「急でごめんなさい。明日なの、公演日」

「あ、明日!?」


 アイリンが驚いた声をあげ、みんな一瞬だけ考えて……。


「わたしは大丈夫だよ!」

「そうね。あたしも特に予定はないわ」

「ボクもボクもー!」

「私も。夏休みの予定考えるの、これからだったし」

「よかった……! では急だけど、明日みんなで行きましょう」


 夏休み初日。さっそくみんなで、ライブマジックショーを観に行くことが決まった。

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