64「命名、通話魔法」クランリーテ
「か、完成じゃない? これで? なに言ってるのよ、十分でしょう?」
案の定、サキが声を荒げて抗議する。
アイリンが披露してくれた遠くの人と会話する魔法。
私もこれで完成でいいと思うんだけど、アイリンはまだだと言う。
「アイリン。いったい、どこが未完成なの?」
「えっとね。実はこのイヤリング、一組しか造れないんだよ」
「えー? スマート鉱石足らなかった? また取ってくるよ?」
「ううん! 素材の問題じゃないんだ」
「では……いったい?」
素材が足りなくて造れないわけじゃないらしい。
造ろうと思えば造れるのにダメってことは、なにか魔法に問題がある?
一組しか造れない理由。……一組、しか……あ。
「そっか……わかったかも」
「なによ、クラリー。どういうことよ」
「アイリン、この魔法もしかして、イヤリングを複数造っちゃうと識別できない?」
「さっすがクラリーちゃん。そうなんだよ~。魔法を発動させると、造ったイヤリング全部に繋がって声が届いちゃうんだ」
「えっ? ……あ……そういう、こと?」
驚きながらも、納得するサキ。
アイリンの魔法は、もう一つのイヤリングを探して繋ぐだけ。選んで繋ぐという能力は無いんだ。
例えば三人が持っていた場合、私とアイリンで会話をしたいのに、サキにも繋がってしまう。アイリンとだけ繋げる、ということができない。
「で、でも、今回のはそれだけじゃないわ。呼吸で取り込むマナに作用する魔法、それだけでも発表するに値するわ」
「だめだめ! 完成するまで絶対だめだからね、サキちゃん!」
頑なに譲らないアイリン。
正直、私もサキの言う通りだと思うけど。
アイリンが未完成だと言うのなら、納得いくまで隣りで見届けるだけだ。
それよりも……。
「ねぇアイリン。一つ聞きたいんだけど……。呼吸で取り込むマナに作用させるのって、他の効果も乗せられる?」
「どうだろ? たぶんできると思うよ~」
「っ……だよね」
どくんと、心臓が大きく鳴る。
他の効果の魔法も乗せられるなら。
身体の内部、病気の治療に利用できるかもしれない。
治療方法の見つかっていない病気、例えばそう、マナ欠乏症の治療にも――。
「今後はイヤリングを識別できるようにするのが課題かな~。これが意外と難しそうなんだよ」
「待ちなさいよ、アイリン。やっぱり、その、発表を……」
尚も言い縋るサキだけど、その声にはもう強さがなかった。
私はぽんと、サキの肩に手を置く。
「もう言っても無駄だよ。サキもわかってるでしょ?」
「でも……あぁ、もうっ!」
「アイリン。私は最後まで付き合うよ。一緒に完成させよう」
「ボクもボクも! アイちゃんのしたいようにした方が絶対いいよ!」
「そうですね。……本当に隠しておいていいのか不安になるけど、きっと、これでいいんだよね」
「いいわけないじゃない……。本当にもう、しょうがないわね。あたしも最後まで手伝うからっ。早く完成させなさいよね!」
「みんなっ……!」
みんなの言葉に、アイリンは顔をくしゃっとさせて涙ぐむ。
慌てて手で拭って、首を振り。そして、
「うん! みんな、本当に……本当にありがとう!」
嬉しさの溢れる、とびきりの笑顔を見せてくれた。
「あ、そういえば。遠くの人と話す魔法だと長いから、名前も考えたんだよ~」
「やっと? どんな名前?」
「名付けて通話魔法! このイヤリングはテルテルリング!」
「テルテル……。通話魔法はいいと思うけど」
「テルリングとかテルイヤリングでいいじゃない。なんで繰り返すのよ」
「それもなんかなー。ボクはテレッホーリングとかいいと思うなー」
「テレポーションリングとかどうでしょう」
「え……テルテルだめ? かわいいのに……。クラリーちゃん、なにかいい名前ない?」
「わ、私? う~ん……テレフォリング、とか」
「クラちゃんそれいいねー」
「いいじゃない。なんとなく語感がいいわね」
「私もいいと思うよクラリー。どうかな、アイリンちゃん」
「すっごくいいよ! よーっし、じゃあ決まり! 通話魔法とテレフォリングだね!」
「い、いいの? ……ま、アイリンがいいって言うなら、いっか」
未分類魔法クラフト部
クラフト9「学期末試験とアイリンの魔法」
~第一部・一学期編 了~
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