63「完成? アイリンの魔法」クランリーテ
「な、な、な、なによこれっ! うわ、ナナシュの声が身体の中から……!?」
「こ、これは不思議な感覚ですっ。サキちゃんの声が、くすぐったいです!」
「サキ! ボクにも貸してよ! はやくー!」
……驚いてる驚いてる。
サキたちにイヤリングを貸すと、私と同じような反応をしていた。
さすがに喋った本人の声は外に出ているけど、受け取る側のイヤリングからは声が出なくなっていた。身体の中から相手の声が聞こえてくる、あれは……?
「よかった~大成功だよー!」
「待ってアイリン! これどうなってるの?」
成功は成功だろうけど、いったいなにがどうなっているのかさっぱりわからない。
「うん、もちろん説明するよ!」
アイリンがそう言うと、イヤリングを試していたみんなも集まってくる。
「イヤリングの宝石の、大きい方。スマート鉱石に入ってる魔法は、相手に声を飛ばして、声を受け取る。そこは今までと一緒なんだけど」
サキとチルトからイヤリングを受け取り、アイリンはみんなに見えるように指でつまんで持つ。
「今回改良したのは、相手の声を受け取る時。ふふふ……みんなは呼吸するときにマナを少しだけ取り込んでいるのをご存じですかっ」
「知ってるよ。ていうかそれ」
「はうっ、アイリンちゃん、もしかして私の真似……?」
「えへへ、ちょっと言ってみたくて」
「はぁ……。それがなんだって言うのよ?」
サキがちょっと呆れた声を出す。
確かに、呼吸の話とこの魔法の関係性がわからない。
アイリンは腰に手を当てイヤリングを掲げる。
「この魔法はね、呼吸の時に身体に入るマナに作用してるんだよ!」
「……………………………………………………は?」
身体に入る……マナ、に?
私たち四人とも、同じ顔をしていたと思う。
アイリンがなにを言ったのか。その言葉の意味がわかっても、理解ができなくて。
「呼吸で身体に入ったマナに待ったをかけて、受け取った声を乗せるの。ほら、受け取った声って魔法そのもの、マナそのものだから、一緒に身体の中に入ってくれるんだよ」
呼吸で取り込んだマナは、エネルギーとして身体を巡る。
その流れに……魔法を乗せる?
「なっ……なに、それ、そんなこと……」
「ちょっと待ちなさいよ……アイリン、あなた」
「魔法のこと詳しくないボクでも、とんでもないってわかるよ」
「とんでもないというか、常識の壁を軽く越えてしまっています……!」
ナナシュの言う通り。通常、魔法を使うためのマナは呼吸とは別に取り込む。
呼吸で取り込んだマナを魔法で使うなんて、そんな発想今まで誰もしたことがない!
…………いや。
思わずチルトの方を見ると、向こうもなにかに気付いたのか目が合う。
微かに頷き合い、同じ考えに至ったことを確認する。
呼吸で取り込むマナに魔法を込めて、自身の体に影響を与える。
もしかしたら、魔剣の魔法もそういうことなのかもしれない……。
アイリンは話を続ける。
「身体を巡ったマナが胸の辺りに来ると、声になって聞こえて来るんだ。本当は耳の辺りにしたかったんだけどね。胸からだとなんかくすぐったいし」
「それは……たぶん、マナを取り込む器官が胸にあるからだよ」
魔法を使う時にマナを取り込む場所。そこに辿り着いた時に、声になるんだと思う。
「やっぱりそうかな? だとしたらこれはもうどうしようもないね。みんな慣れよう!」
そう言って笑うアイリン。
慣れようって……。でもそれってつまり、
「アイリン。じゃあ、魔法は完成したってことだよね」
「あっ……そうよ! 完成したのよね? だったら今度こそ発表ね!」
「やったねー! これで遺跡探索に持っていけるっ!」
「すごいです、おめでとうございますアイリンちゃん」
私たちがアイリンに詰め寄ると、アイリンは――何故か困ったような顔になる。
……まさか。
「みんなありがとうっ。でも待って、発表はダメだよ! まだ完成してないから!」
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