62「魔法を最初に試すのは」クランリーテ
「ここでいいかな? 外のが広くていいもんね」
私たちは部室から風の塔の中庭に出た。
試験の終わった学校はとても静か。生徒のほとんどは早々に校舎を出て、遊びに出かけたか疲れて家に帰ったか。人の姿がまったくない。
――遠く離れた人と会話をする魔法。
アイリンが披露をするのには好都合だった。
「それじゃまずは……じゃじゃーん! 新しく作ったこれを見て!」
アイリンがポケットから取り出したのは、一組のイヤリング。合宿の時に作っていたのが完成したようだ。
「おおー! オシャレな感じにしたんだね、アイちゃん」
「耳につけられるのは便利そうです」
「だね。……あれ? そのイヤリング、石が二つある……?」
イヤリングには細い円柱状の宝石と、一回り小さな丸い宝石も付いていた。
「アイリン、ちょっと見せて」
サキが近付いて、アイリンが持つイヤリングをじーっと観察する。
「これもしかして、大きいのがスマート鉱石で……小さいのは、ガラン石?」
「えっ、ガラン石? そうなの?」
「ふっふっふ。そこに気付くとはさっすがサキちゃん」
アイリンが自慢げにイヤリングを掲げる。
「どぉーーーしてもね、わたしがやりたいことをするのに、一つの魔法だと難しくって。どうしたらいいんだろうって思ってたんだけど……。こうやって! 石をふたつ付けることで解決しました!」
「あ……それって」
『上手くいかないってこないだ言ってたでしょ? 一つの魔法に色々詰め込み過ぎてるのかなって』
「うん! クラリーちゃんのおかげで思い付いたんだ。魔法を二つにすればやりたいことはできる。でも宝石には一つの魔法しか込められなくて」
「だから、石を二つに……」
「スマート鉱石を二つ付けると重くなっちゃうから、小さく削ったガラン石にしてみたんだ。二つに分けた魔法の片方は、ガラン石でも十分だから」
私が言った、魔法を二つに分けたらってアドバイスから、そこまで思い付くなんて。
やっぱりすごいよ、アイリン。
「待ちなさいよ二人とも。あの時、結局二つの魔法を同時には使えないってなったじゃない」
「だいじょうぶ! あのね、まずガラン石の中にある魔法が発動するんだけど、それは前と同じで、もう一つのイヤリングを探して会話ができるようにマナで接続するの。そしたらスマート鉱石の魔法に繋いでバトンタッチ、声をやり取りするんだよ」
「繋いで……」
そうか、例の連動する魔法の応用だ。接続したマナをそのままに、次の魔法を発動する。
「そういうことね……。ガラン石は二つのイヤリングを接続する魔法。スマート鉱石は声のやり取りをする魔法。繋げて順番に発動するのね」
「うん!」
……すごいな。
たぶん宝石を使う魔法だからできるんだ。イメージを必要しないから、魔法を途切れさせずに発動できる。
納得した私たちを見て、アイリンは嬉しそうに笑ってイヤリングを右耳につける。そして、
「はい、クラリーちゃん!」
「……え? 私?」
もう一つのイヤリングを差し出されて、つい戸惑ってしまう。
「まずはクラリーちゃんに試して欲しいな」
「う、うん」
私はイヤリングを受け取って、みんなの顔を見る。
「なに遠慮してるのよ。早く付けなさいよね」
「ま、クラちゃんが最初だよねー。早く試してみてよっ」
「クラリーの助言のおかげなんだから、当然ですよ。さあ、早く」
「みんな……」
私は頷いて、同じように右耳にイヤリングをつける。
アイリンの魔法がどんな風に変わったのか。
きっとみんな試したくて仕方がないはずだ。
でも私だって――ううん、誰よりも一番、使ってみたいと思っている。
あの日見たアイリンの魔法に。私が一番魅せられているって、自覚があるから。
「つけたよ、アイリン」
「うんっ! それじゃ、クラリーちゃんはみんなとそこにいてね!」
タタタッと中庭の奥へと駆けて行き、くるっと振り返る。
アイリンがイヤリングに触れると、宝石がぽうっと光りだす。
二つのイヤリングが繋がった証拠だ。
顔を上げると、アイリンと目が合う。
頷き合い、アイリンは直接声が聞こえてしまわないように口を押さえ――。
『どう? 聞こえてるかな?』
「うわっ!? な――え? き、聞こえてるけど? なにこれ?」
アイリンの声が身体の中から聞こえてくる? ちょうど胸の辺りから、響くように。
うわああぁぁ……なんだこれ? なんかくすぐったい、変な感じがする!
「ちょっとクラリー……どうしたのよ? もう会話してるの?」
「ボクたちなにも聞こえないんだけど」
「クラリーにはアイリンちゃんの声が聞こえているの……?」
「――!!」
サキたちにはアイリンの声が聞こえていない。それってつまり――。
視線の先のアイリンが飛び上がる。
「やった! 周りの人に声が聞こえちゃわないようにできたよー!」
アイリンのやりたかったことができた。魔法は、大成功だった。
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