61「学期末試験、終了!」クランリーテ


「みんな、試験おつかれさまっ!」


 午前中に全クラスの試験が終了し、未分類魔法クラフト部のメンバーは部室に集まっていた。

 アイリンの声にみんな口々にお疲れ様と言い合う。


「クラリーたち上手くいったみたいね。あたしも見たかったわ。……演舞場がすごいことになっていたけど」

「あはは……まぁ、ね」


 自由課題の試験はクラス毎。私たちが使った演舞場は次にサキのクラスが使ったみたいで、あの惨状を見たようだ。


「すっごく楽しかったよ! あとね、途中で驚いちゃった」

「驚いた? そういえばアイリン、一瞬驚いた顔してたね。あれってやっぱり嬉しくて?」

「うん! クラリーちゃんがあんなに嬉しそうに笑うの初めて見て」

「そう――――えっ!? アイリン私の顔を見て驚いたの?」

「そうだよ~。魔法が上手くいって喜んでるのがすごく伝わってきたよ!」

「い、いや、あれはその……」


 確かに、アイリンのことを認める声が聞こえてきたのが嬉しかった。けど……。

 私、そんなに笑ってたの?


「クラリーちゃん?」

「……なんでもない」


 説明するのが恥ずかしくなってきて、ついそっぽを向いてしまった。

 たぶん顔が赤くなってると思う。


「くぅっ……! 抜け出してでも見に行くべきだったわっ」

「わたしもみんなの自由課題見たかったよ~。ね、サキちゃんはどんな魔法道具作ったの?」

「あ、そういえばサキ、試験で使う魔法道具見せてくれなかったね」

「えっ? それは……ほとんど家で作ってたから。あたしが今回作ったのは、これよ」


 そう言ってサキはポケットから眼鏡を取り出す。これって。


「あれ? サキちゃん、眼鏡半分しかないよ?」

「片側だけの眼鏡……モノクルですね」

「オシャレでしょ? このツルのところにある宝石が、吸収するマナを増幅するのよ」

「へぇ、すごいねサキ。私、こんな魔法道具見たことないよ」

「機能性だけじゃなくデザインも凝ったの。今までで一番の出来ね。先生にも褒められたわ」

「夜遅くまで頑張ってたもんねー。サキの部屋ずっと灯りついてた」

「作るのが楽しくなってきちゃって、ついつい遅くまで作業しちゃうのよ。チルトこそ、夜中に魔法の練習してたじゃない」

「まあねー。サキがんばってるなーって思ったら、じっとしてらんなくて」

「チルトは結局、魔剣を使う以外にもなにかしたの?」


 こないだの合宿の時に、魔剣を使うだけじゃつまらないからなにかしたいと言っていた。


「ボクはねー。見せた方が早いかな」


 そう言うとチルトは立ち上がり、魔剣を手にする。


「ちょっとチル、こんなところでやるつもり?」

「大丈夫だよサキ。軽く見せるだけだから」


 サキはチルトがやろうとしていることを知っているみたいで、不安そうな顔を見せる。

 魔剣を使って、さらになにかするつもりみたいだけど……いったい?


「魔剣って、使ってるときは他の魔法使えないでしょ?」

「え、そうなの!?」

「アイリン……もう少し魔剣の勉強しようよ。魔剣って魔剣の魔法を使っているわけだから、さらに属性魔法を使うことはできないんだよ」

「クラちゃんの言う通り。でもね」


 チルトが僅かに浮かび上がる。そして――。


「ほっ!」


 バフッ!


 足下で風が巻き起こり、一瞬でチルトの体が天井付近まで飛び上がった。


「いまの風属性魔法!? でも……?」


 チルトは天井に手をついて浮かんだまま。魔剣を使い続けている。

 間違いなく魔法で風を起こしていたのに……どうやって?


「クラちゃん考えてるねー。ボクは単純なことしかしてないよ。一瞬だけ魔剣を解いて、魔法を使っただけ」

「え……? いや、でもそこまで高く飛び上がるにはもっと強い魔法じゃないと無理だよ」

「そこは魔剣の特性かなー。これで浮いてる時ってすっごく軽くなっててさ。ちょっとした風魔法で飛ばされちゃうんだ。だから、呪文も使わない適当な魔法でもここまで飛べるってわけ」

「…………!」


 足下で起こした風が残っているうちに魔剣をもう一度発動、風に乗って浮かび上がる。

 なるほど確かにやってることは単純。でもそのタイミングを掴むために相当練習したんじゃないかな……。

 今は上昇しただけだけど、きっと本領を発揮するのは横移動だ。使わせてもらったことがあるからわかるけど、浮かんでる時はゆっくりとしか移動できない。素早く動けるようになれば使用の幅が広がると思う。


「チルちゃんすごい! そのために属性魔法の練習してたんだね!」

「だけじゃないけどね。やっぱさ、属性魔法もちょっとは使えないとダメかなって思い直したんだよ。ってわけで、ボクはおしまい!」


 浮かんでいたチルトは着地して、そそくさと椅子に座る。

 前は魔剣があるから属性魔法はいらないって言ってたのに。なにか誤魔化すように話を終わらせたのは、やっぱりハミールのことを意識しているのかな?


「ナナシュちゃんはこないだ言ってた風邪薬?」

「はい。……実は、試験官の先生がたまたま風邪をひいていて」

「えっ!? もしかして飲んでもらったの?」

「そうなんです。作ってすぐに飲んでもらって……。そしたらガラガラだった声がすぐに良くなって、楽になったと。大絶賛してくれました」

「ふおおお、ナナシュちゃんすごい! わたしもその薬欲しいっ」

「ふふっ。あとでみんなにも分けてあげるね」

「ね、ナナちゃーん。そもそも薬って、普段はどうやって試験するもんなの? 毎回試してもらえるわけじゃないよね」

「作成過程を見てもらうんだよ。正しい製法でちゃんと作れていれば合格。でも細かい効能まではそれだとわからなくて……だからすぐに飲んで試してもらえたのは、運がよかったです」


 ナナシュのことだ、作成過程だけでも十分合格だったと思うけど、効能まで見てもらえたのは大きい。後日出る試験の総合評価、かなり良くなるんじゃないかな。


「そっか~。じゃあみんな自由課題は合格だね!」

「だねー。普通の試験の結果はまだ出てないけど。アイちゃん大丈夫そー?」

「た、たぶん大丈夫だよ。がんばったもん!」

「あとはもう祈るしかありませんね」

「とにかく、最終的な結果はまだわからないけどとりあえず学期末試験は終わったね」

「ええそうよ。そして試験が終わったということは……」

「そーだよサキ! 夏休みだー! やったー!」


 夏休み。その言葉にすごくテンションがあがる。

 みんなすでに長期の休みに想いを馳せているのか、笑顔を浮かべていた。


 ――だけど、その前に。


 五人の視線が、自然とアイリンに集まっていく。

 アイリンは少し照れた顔で、


「えへへ。それじゃ、こないだの宣言通り。……みんなに、魔法を披露するね」

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