クラフト9 学期末試験とアイリンの魔法

60「学期末試験自由課題」クランリーテ


「それでは次、アイリン・アスフィールさんとクランリーテ・カルテルトさんですね」

「はいっ!」

「はい」


 今日は試験最終日。学校の演舞場に集まり、順番に自由課題を披露する。

 私たちは先生に呼ばれてみんなの前に出た。


「なんであの二人がペアなんだ?」

「最近ずっと仲いいよね。でも……」

「アイリンちゃんには悪いけど、属性魔法の成績が釣り合わないっていうか」

「うん……だよね」


 やっぱりそんな風に思われちゃうか。

 昨日の属性魔法の試験も、アイリン頑張ってはいたけど補習になるかどうかの瀬戸際だ。そうでなくとも普段の授業を見ていたら、そう思うのも仕方がない。


「ねぇ、アイリン――」

「クラリーちゃん、ついに本番だね! がんばろう!」

「……うん。がんばろう」


 いらない心配だったかな。本人はまったく気にしていない。

 というか聞こえてなさそう。すごく集中してる。これから二人ですることを早くみんなに見てもらいたい、それしか考えてない。そんな顔だ。


 そうだ、クラスのみんながどう思おうと関係無い。

 わたしたちの魔法を見れば、アイリンがすごいんだってわかるんだから。


「クラリーちゃん、いつでもいいよ!」

「わかった。それじゃ、始めるよ」


 二人、距離を置いて向かい合い。私が右手を掲げると、アイリンも同じように右手を挙げる。

 まずは打ち合わせ通りに。呪文無しで、手のひらから炎を吹き出させる。

 炎は演舞場の高い天井すれすれまで立ちのぼり、クラスのみんなから歓声があがった。

 そして――。


 ボッ!!


 アイリンの手のひらからもまったく同じ大きさの炎が上がり――歓声が止んだ。

 みんなぽかんと口を開けてアイリンの炎を眺めている。

 ……ふふ、まだまだこれからだよ。


 私は炎を消して、左手を前に出す。手のひらを少し上に向けて、求めるように。アイリンが同じ動作をするのを待って、水属性魔法を発動、噴水のようにアイリンの方へ飛び出す。すぐにアイリンの手のひらからも水が吹き出し弧を描く。お互いの水流を交差させると……やがて、虹がかかった。


 ――お……おぉぉ!!


 さっきよりも大きな歓声。今度こそ、私たち二人に対してのものだ。


(ほら、ね。アイリンはすごいんだよ!)


 みんなの歓声に満足していると、アイリンと目が合う。笑顔だったアイリンの顔が一瞬驚いた顔になって、でもすぐに嬉しそうに笑った。

 驚くほど嬉しかったのかな?


 ま、いっか。私は水を消して、しゃがみこんで地面に両手をつく。

 床がぽうっと光り、周囲の床が草原のように緑に染まる。そこへ白や青の美しい花が咲いていく。

 土属性魔法の植物生成。……もとになる植物がないから、魔法を解くと消えちゃうけど。

 アイリンも同じようにしゃがんで、まったく同じ草花を生成する。私は床に手を向けたまま立ち上がり、魔法を維持してゆっくり歩く。追いかけるようにして草が、花が、次々と咲いていく。

 私とアイリン。二人で花を咲かせながら、真ん中でくるりと背中合わせ。

 せーので両手を挙げると、


 ――ブワッ!


 一斉に、すべての花が宙を舞う。

 色鮮やかな花びらが、私たちを包み込む――。



 瞬間、演舞場に盛大な拍手が巻き起こった。


「す、すげぇ! なんだよアイリンやればできるんじゃん!」

「アイリンちゃんすごい! 呪文なしでクラリーさんと同じ魔法使ってたよ!?」

「う、美しい……。私にはここまでクランリーテさんの魔法に合わせられないわ」

「アイリンちゃーん! クラリーさーん! すごかったよー!」


 よかった、みんな認めてくれて……。

 あぁでもどうしよう、まだこのあと風属性魔法を見せるつもりなんだけど。もう終わりみたいな感じになってる。

 ま、みんなにもう一回驚いてもらおう。


 私は予定通りアイリンに向き直り、手を――。


「ね、クラリーちゃん。あれやってみない?」

「あれ? ――って、いやいやいや、あの魔法は未完成だよ」


 アイリンがどの魔法のことを言っているのかすぐにわかり、私は首を振る。


「だいじょうぶだよ! きっとみんな許してくれるよっ」

「……しょうがないなぁ。わかったよ」


 私たちは頷き合い、向かい合ったまま後ろに下がった。

 クラスのみんなもまだ終わりじゃないと気付いて静かになる。


 最初と同じくらいの距離まで離れて、私たちは立ち止まり、右手を前にかざした。


 これから使う魔法をイメージする。

 風属性魔法。風を集め、風を止め、圧縮する。

 いつもは呪文なしで魔法を使うけど、この魔法は……。


「……風よ集え、風よ止まれ。私は求め、創り出す。空を歩む者、道は今ここに」


 呪文を唱え、腕をふわっと三回振る。アイリンも同じように腕を振り、目を合わせて一緒に魔法の名前を口にする。


『――エア・ウォーカー』


 私たちは一歩、二歩、三歩と階段を上るように、空を歩く。

 クラスのみんなもちろん、先生も手に持っていた記録用のボードを落としてぽかんと私たちを見上げていた。


 オイエン先生が合同講義で見せてくれた魔法。それを再現して見せた。

 私でもイメージが難しかったのに、アイリンは複製するという考え方だけでできちゃうんだから、なんか……ね。アイリンがすごいのはわかってるんだけど。

 ちょっとずるいなぁ。


 私たちは空中で手を上げてハイタッチ、みんなの方を向いて頭を下げた。



 ――ワァァァァァ!!



「あれアスフィール先生のだよな!?」

「うそでしょ、クラリーさんすごっ……ていうかアイリンちゃんもなんでできるの!?」

「これは驚きましたね……。二人とも、文句なし合格ですよ」


 今日一番の大歓声と拍手。

 アイリンと顔を見合わせると、上手くいったね、という感じでウィンクをしてきた。

 私は頷く。本当に、アイリンは楽しそうな笑顔をする。



 歓声と拍手が落ち着いてきたところで。

 私とアイリンはもう一度揃って頭を下げる。


「えっと、みんな」

「ごめんなさいっ! 先に謝るねー!」


 みんなが首を傾げる中、私たちは手を繋いで見えない階段を駆け下りる。そして少し離れたところでしゃがみ込んだ。


「……ハッ! みんな先生の後ろに!」


 ブオオォォォォォォ!!!


「きゃああぁぁぁ!」

「うわぁぁぁ!」


 先生が叫ぶと同時に、暴風が演舞場に巻き起こり色んな物が吹き飛ばされる。

 咄嗟に先生が土属性魔法で壁を作ってガードしてくれたけど、何人かはその場に尻餅をついていた。


 魔法を解くと暴走する。そこはまだ、どうすることもできなかった。


「……やっぱりこうなったよ」

「えへへ……」


 その後少しだけ先生に怒られたけど、みんな笑って許してくれた。

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