58「真夜中のがんばり」クランリーテ


 私たちは二つの客間に分かれて寝ることになった。私は自分の部屋でよかったんだけど、せっかくだから一緒の部屋で寝ようよ~とアイリンに言われて、私も部屋割りに参加することになった。

 くじ引きの結果は、チルト、サキ、ナナシュの三人と、私とアイリンの二人という組み合わせ。サキたち幼馴染みはいつもと変わらないって不満そうだったけど、チルトはすぐに「というわけでナナシュちゃん一緒に寝よー!」って抱きついていた。


 さっきの騒動で思ったより疲れていたのか部屋に入ると眠気に襲われ、ベッドに倒れるようにして寝てしまったんだけど……。


「えっと……ここの部分を少し削って……」

「……アイリン?」


 物音に目を覚ますと、アイリンがテーブルに向かってなにかをしているのが見えた。


「わっ、ごめんねクラリーちゃん。起こしちゃった?」

「いや……。なにか、作ってるの?」


 ベッドから起き上がり、アイリンが作業していたテーブルを覗く。


「魔法……道具?」


 まだ宝石は入っていないけど、魔法道具で使う金具の枠を加工していたようだ。


「えへへ、見付かっちゃった。離れた人と話をする魔法で使うんだよ」

「ああ……。なるほど」


 前は紐で縛ったものだったけど、今度は金具でアクセサリーにするみたいだ。


「これ、イヤリング型にするの?」

「うん。その方が自然に見えるかなって。サキちゃんに細かい加工の仕方教わったんだ」

「なるほどね。……でも、こんな時間にやらなくても」

「そうなんだけど、昼間は自由課題の方に集中しなきゃでしょ? でも未分類魔法も早く完成させたいんだよ。だったら、夜にやるしかないなぁって」

「アイリン……」


 自由課題で彼女の足を止めて欲しくないと思っていたけど。

 はなから止まるつもりなんてなかったみたいだ。


「がんばってるんだね。アイリン、私が手伝えることはない?」

「え? うーん、そうだなぁ……」


 申し出てみたものの、逆に困らせるだけだと気付く。

 なにか飲み物でも持ってきてあげるかな。


「あ、そうだ! クラリーちゃん、自由課題の方で試したいことがあるんだよ」

「自由課題のって……でも、今は未分類魔法の方をやるんでしょ?」

「うん、わたしも明日の朝試そうと思ってたんだけどね。でも今やっちゃえば、未分類魔法の方にもっと集中できるようになるから!」

「それって、その試したいことが上手くいけば自由課題がなんとかなるってこと?」

「うん!」

「即答……。自信あるんだね。わかった、やってみよう」

「ありがと、クラリーちゃん!」


 私はテーブルを挟んでアイリンの向かい側に座る。


「なにをするのか、聞いていい?」

「もちろん! あのね、さっきの魔剣を見て思いついたんだよ」

「魔剣……あの、円盤の?」


 黒いデコイを作り出す魔剣。あれを見てなにを思いついたのか……私にはまったく想像ができない。


「これからやるのはね、前にクラリーちゃんがやってくれた、属性魔法の特訓と同じこと」

「えーと……あぁ、私が見せた魔法をアイリンが真似するってやつ?」

「そうそう!」


 私がマナ欠乏症で倒れちゃった時のだ。

 あの教え方、チルトたちには不評だったんだよね……。


「うーん、そう言われてもまだなにをするつもりかわからないんだけど。魔剣とどう関係があるの?」

「魔剣はきっかけっていうか……。わたしが、考え方を変えればいいんだって気付いたんだよ」

「考え方……」


 前に、思考を切り替えることができればアイリンも属性魔法を使えるんじゃないかって思ったことがある。それにアイリン自身が気付いた?

 だとしても、やっぱり魔剣を見てというのがわからない。


「クラリーちゃん、なにか魔法を出してみて!」

「わ、わかった」


 やって見せてもらった方が早いか。私は素直に、手のひらを上に向けて小さな炎を出す。


「ありがと。……わたしが今から使う魔法は、未分類魔法」

「……え?」

「真似するんじゃない。わたしはこの小さな炎を……っ」


 ぽうっと、アイリンの手のひらから炎が出る。

 私が出したのと……ほぼ同じ……いや完全に同じ大きさの炎だ。


「複製……? え、そんな未分類魔法を創ったってこと!?」


 だとしたら、それもとんでもない魔法だ。下手したら例の魔法以上に革命レベルの魔法になる。そっか、だからあの魔剣なんだ。使用者の複製デコイを作るところに目を付けたんだ!


 ……と、頭の中で一人盛り上がっていると、アイリンが首を横に振った。


「だったらすごいんだけどね。でもこれは普通に属性魔法だよ」

「……えぇ? でもさっき……」

「わたしは考え方を変えただけ。複製する魔法。そういう未分類魔法があって、わたしは魔法を複製している。そう思うことで、クラリーちゃんと同じ魔法が出せる。……うん、上手くいってよかったよ~」


 思考を切り替える。……私が思っていたのとはだいぶ違うけど、結果的にアイリンは属性魔法を使えた。これなら……!


「すごいよアイリン! これなら自由課題はもちろん、普通の試験もクリアできるよ!」

「ありがとう! ……でもね、言いにくいんだけど、普通の試験はダメかなーって」

「なんで? 今みたいにすれば……あ」

「試験の時はお手本がないから。複製するって考え方はできないんだよね」

「……そっか。でも魔法自体は使えてるんだから、普通に使えるようにもなるよ」

「だといいなぁ。地道にがんばるよ~」

「うん。応援してる」


 その後、アイリンは金具の加工に戻り、私は飲み物を用意して作業を見守った。

 おかげで寝るのが遅くなり。

 次の日、私たちは揃って寝坊することになった。

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