55「またお邪魔するね」アイリン


「こんな話、知ってるかしら?


 ちょうど今くらいの暑い時期よ。コンコンって、夜中に玄関のドアをノックされるの。こんな時間に誰だろう? そう思いながら開けてみる。でも、そこには誰もいないのよ。


 イタズラかなってドアを閉めるんだけど……その時に、お邪魔しますって女の子の声が聞こえるの。もちろん周りには誰もいないわ。外にも、もちろん中にもね。


 念のためしっかり戸締まりをして家の中でくつろいでいると……今度はパタパタパタって、どこからか足音が聞こえてくる。なにかを叩くような音もする。


 まさかと思い家の中を探して回ると、廊下の隅に女の子の影が! やっぱりさっき家の中に誰かが入り込んだみたい。でもなんで女の子が? 一応警戒しながら影に近づいて行くんだけど……そこには誰もいない。女の子なんていないの。


 さすがに不気味に思っていると、耳元で、女の子の声が」



『またお邪魔するね』



「「きゃあああああああああ!!」」


「うわぁっ!?」


 突然の悲鳴にわたしはひっくり返りそうになった。

 サキちゃんの話してくれた怖い話より、悲鳴の方にドキドキしたよ。

 えっと、今の声は……。


「今の、もしかしてクラリーちゃんとナナシュちゃん?」


 見ると、二人はお互い抱き合って震えていた。


「二人ともビビりすぎだよー」

「そんなに怖がるとは思わなかったわ……」

「だ、だって……」

「はうっ……怖すぎますよサキちゃんっ」


 わたしたちが寝る客間の一つに五人集まって、怖い話をする。

 そういえばクラリーちゃんとナナシュちゃんは猛反対してたっけ。

 でもチルちゃんが無理矢理始めて、サキちゃんが有名な『またお邪魔するね』を話すことになったんだよね。

 確かに怖い話だけど、わたしは内容を知ってたし……なにより二人の悲鳴で怖くなくなっちゃった。


「クラリーは幽霊とか信じる方なの?」

「うん。絶対いるよ。いるに決まってる」


 人が死んじゃったあと、その意識だけが残り彷徨っている状態を幽霊と呼ぶ。

 普通は見えないんだけど、マナの影響かなにかで見えてしまうことがあるとかないとか。

 曖昧な言い方になっちゃうのは、はっきり証明されたことがないから。人が死ぬとどうなるかなんて、誰にもわからないもんね。

 いるかどうかわからないって、やっぱりなんか怖いから。幽霊を怖がる人は多い。


「クラリー、幽霊がいるなんてまだ言ってるんですか。いるわけないよ」

「ナナシュこそ、まだいないと思ってるの? たくさんの目撃談があるのに」

「それは全部マナのせいです。魔法を使った場所で時折発光現象が起きることはクラリーも知ってるよね? 幽霊はだいたいそれの見間違いだと言われています」

「だいたいってことは本物もいるってことだよ」

「い、いません。いないんです幽霊なんて」

「いるよ……幽霊はいるよ……」


 言い合いを始めたかと思ったら、すぐにまた頭を抱えて震え始める二人。


「これはまた……対照的な怖がり方ね」

「クラリーちゃんは幽霊を信じているから怖くて」

「ナナちゃんは怖いから幽霊なんていないって思い込んでるんだねー」


 サキちゃんの言う通り、対照的だなぁ。

 ちょっと面白い……なんて思っていると。


 トンッ。


「ひっ……!!」


 微かに、本当に微かにだけど、ドアからなにかがぶつかる音がした。

 みんなの位置からだと誰もドアに手が届かない。間違いなく外からの音だ。


「ノックだ……今の、さっきの話の女の子だよ!」

「そそそ、そんなわけないですよ気のせいですよ」

「わたしも気のせいだと思うけど~……タイミング的に怖いね」

「クラリーのお母さんじゃない? 様子を見に来たのかもしれないわ。そもそもさっきの話、部屋のドアじゃなくて玄関のドアよ?」

「でもさー。確か家の中のドア版もなかったっけ?」

「えっ……」

「ああもう、チル! 怖がらせちゃだめでしょう」

「あ、そっか、ごめんごめん。じゃあいいよ、ボクが開けて見てくるから」

「開ける!? 待って、チルト、まだ心の準備が!」


 クラリーちゃんが慌てて止めようとするけど、構わずチルちゃんがドアを開ける。

 ……わたしも見に行ってみようかな。クラリーちゃんとナナシュちゃんを安心させてあげたい。


「どう? チルちゃん」

「うーん……ね、アイちゃん。あれどう思う?」

「え?」


 廊下は灯りが消えて真っ暗だけど、奥の階段がある辺りはまだついている。

 そしてそこに……


「う、うわぁぁぁぁ!」


 ……小さな女の子の影が見えて、わたしは悲鳴をあげてしまった。

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