54「みんなでお風呂」アイリン


「はぁ~、気持ちがいいねぇ、クラリーちゃん」

「ん……いい湯加減」

「家にこんな大浴場があるなんて……贅沢すぎるわ」

「ここなら泳げそうだよねー。いいなー」

「ゆっくり浸からなきゃダメだよ、チルトちゃん」


 夜、まるで温泉みたいな大きなお風呂に、わたしたちはのんびり浸かっていた。


 もちろん、なにもしてなかったわけじゃないよ。

 家を一通り見せてもらったあと、屋上にあがって魔法の練習。日は落ち始めていたけど、まだまだ西日が強くて暑かったなぁ。もうすっかり夏だよね。

 それからクラリーちゃんのお母さんが作ってくれたカレーライスを食べたんだけど、すっごく美味しかった! ついついおかわりしちゃった。

 食べ終わって一休みして、こうしてお風呂に入っているわけだけど……。


「…………」


 ぶくぶくぶく。

 結局、自由課題でどういうことをするか決まらなかったなぁ。


 屋上の練習では、わたしとチルちゃんが属性魔法の基礎を教わった。

 サキちゃんの教え方すっごくわかりやすかったよ。逆にクラリーちゃんは教えるのがあんまり上手くないことがわかって、ちょっとショックを受けてた。わたしはそうは感じなかったんだけどね。

 ナナシュちゃんからも教わったんだけど、魔法のコントロールがすごく上手くてみんな絶賛してた。薬を作るのに必要なことだからってナナシュちゃん照れてた。

 チルちゃんはいつにも増して真剣に属性魔法の練習をしていた。この間のハミールちゃんとの勝負で思うところがあったみたい。


 みんながんばってる。わたしは……どうすればいいんだろう?


「アイリン大丈夫? すっごく悩んだ顔してるけど」

「うん~……。魔法どうしようかなって考えてたんだよ」

「あぁ……うん。そうだね」


 隣りにやってきたクラリーちゃんが、一緒になって考え出す。うぅ、だんだん申し訳なくなってきた。


「サキは自由課題どうするの?」

「あたし? 決まってるじゃない。自作の魔法道具で魔法を使うわ」

「なるほど。……ねぇ、サキ。今度、私に魔法道具作成教えてよ」

「えっ!? あたしが、クラリーに?」


 そういえばクラリーちゃん、魔法道具作るの苦手なんだっけ。


「よく考えたら魔法道具作成の試験もあるんだよね。だめかな?」

「ダメじゃないわよ! しょ、しょうがないわね。なんなら明日にでも教えてあげる」


 何故かザバッと立ち上がって、腰に手を当ててそっぽを向くサキちゃん。

 どうしたんだろう。照れてるのかな? たまにサキちゃんこうなるよね。


 ……それにしても、サキちゃんってスタイルいいなぁ。お腹周りはきゅっとしてるし、胸はすごく大きい。あれはちょっぴり羨ましい。

 わたしももうちょっとこう……ね。あ、でもクラリーちゃんよりは大きいかも? にへへ。


「アイリン? 今度はニヤけてる」

「あっ、なんでもないよ、なんでも。あはは」


 いけない。そんなこと考えてる場合じゃなかった。自由課題、自由課題。


「みんな大変だねー。ボクは先生に聞いたら、魔剣を使えればそれだけでいいって言われたよ」

「えっ、そうなの? チルちゃんずるい!」

「魔剣持ってるだけで十分すごいからって。ま、それじゃボクもつまんないし、なんかやりたいと思ってるんだけどね」


 探検家になるために学校に通っているのに、すでに魔剣を持ってるってすごいことだよね。試験通るのも当たり前だ。


「ナナシュはどうするの?」

「私は少し難しい薬の生成をするつもりです」

「ふおお、どんな薬なの? ナナシュちゃん」

「飲み薬で、解熱、喉の腫れや痛みを取る薬だよ」

「それって風邪薬……?」

「はい。あ、意外と難しいんですよ? 授業でも病気に効く薬はこれから教わるところだから」

「へぇ~、それがもうできるってナナシュちゃんすごいね!」

「お、お母さんに教わってるからですよ。それに、まだ売り物にできるようなのはできないから、もっと勉強しないと」


 みんなすごいなぁ……。どうしよう、本当にこのままだとクラリーちゃんの足を引っ張るだけになっちゃうよ。なんとか、なんとかしなきゃ!


「さ、そろそろ出ましょ。明日は早く起きて、涼しい内に魔法の練習するんでしょ?」

「うん。だから今日は早めに寝るよ」

「でもさー、お風呂上がりってすぐには眠れなくない? 暑くて」

「うんうん。わたし時間を空けないと眠れないよ~」

「私もです。少し涼んでからの方がいいよね」

「それもそうね。きっとその方がよく眠れるわ」

「よーし! じゃあさー、お風呂上がったらみんな集まってお話ししようよ」

「あ、それいいね~チルちゃん! なんの話する?」

「なんの? アイちゃん、夏の合宿でする話って言ったら一つしかないよ」


 チルちゃんは勢いよく立ち上がり、得意げに宣言する。


「怖い話、するよ!」

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