52「三姉妹」クランリーテ


 三つ年上の姉さん。カラートゥス・カルテルト。

 ラワ王国に留学してる二つ上の姉さん。キラルテート・カルテルト。

 そして私が一番下、クランリーテ・カルテルト。


「三姉妹だったのね、クラリー」

「私も知りませんでした。前にお邪魔した時は、姉妹の話題は出なかったから……」

「あの時は、母さんがナナシュのことをグイグイ聞いてたからね」

「はぅ、そういえばそうでした」

「いいなぁ三姉妹。わたし一人っ子だからお姉ちゃんに憧れるよ」

「でも、二人とも家にいないよ。カラー姉さんもアカサ王国に留学してるから」

「えぇぇぇ!? そうなの?」

「うん。キラル姉さんよりも前からね」


 カラー姉さんも中学卒業と同時にアカサ王国に留学している。キラル姉さんはそれを見てラワ王国留学を決めたんだと思う。

 もっとも、行ったっきりまったく帰ってこないキラル姉さんと違って、カラー姉さんはたまに帰ってくる。


「クラちゃん。アカサに留学って、もしかしてお姉さん冒険科だったりする?」

「え? あぁ……残念ながら違うよ」


 アカサ王国は未開の大陸に向かう船が出ている関係で、多くの探検家が集う。

 それもあってアカサ王国の学校も冒険科の割合が多く、属性魔法科と半々らしい。

 純粋に割合だけで見るとラワ王国の方が冒険科は多いけど、授業内容はアカサ王国が一番本格的だと聞く。

 アカサ王国に留学したと聞けば、チルトのように誤解するのも無理はない。


「カラー姉さんは造船科だよ」

「へ? ぞうせん……船?」


 アカサ王国にある、建設専門の学校。カラー姉さんはそこの造船科に入った。

 私の三つ上だから、今はもう最高学年の四年生だ。


「姉さんはとにかく知識欲が強くて。私の部屋の本もだいたいカラー姉さんから貰ったんだ。もう読まないからって」


 昔からカラー姉さんは色んな物をくれる人だった。私の部屋にある奇妙なオブジェたちも、全部姉さんのお土産だ。


「それで、どうして造船科なのよ?」

「知識欲の強い姉さんは、未開の大陸に目を付けた。自分の目でまだ見ぬ大陸を見てみたい。調べてみたい」

「なるほど、わかる気がします。でもクラリー……それってまさか」


 私はナナシュに頷く。


「未開の大陸を調べるには、今よりも丈夫で安全な船を造る必要がある。そう考えて、カラー姉さんは造船科に入ることにしたんだって」


 今の船でも未開の大陸には辿り着ける。でもそれは、アカサの最北端から辛うじて見える大陸の、その端っこ。上陸した近辺しか調査ができておらず、大陸の形さえ把握できていない。


 船がもっとしっかりしていれば、調査範囲が広がる。

 まだ誰も見たことのない場所を見るために。カラー姉さんは新しい船を造ろうとしている。


「理解できたわ。でも、こんなことクラリーの前で言うのもなんだけど……ちょっと変わったお姉さんたちね」

「あはは、それは……うん、私も思うよ」


 カラー姉さんも、キラル姉さんも。変わり者だよ。



「えへへ、今日はクラリーちゃんの家の色んな話が聞けて嬉しいな」

「嬉しいの……? ていうかアイリン、合宿で来てること忘れないでよ?」

「わかってるよ~」


 にまにまと笑い続けるアイリン。

 まったく……しょうがないなぁ、もう。


「クラちゃーん。ちょっといいー?」

「うん? なに、チルト」

「ここってクラちゃんの家族の部屋が並んでるんだよね?」

「そうだよ。カラー姉さんの隣の部屋は物置だけど、その奥は母さんと父さんの私室」

「ふぅん。ここ物置かぁ。広い?」

「いや、さすがに他の部屋より狭いよ」

「それがどうかしたの? チル」

「んー、ちょっとね。ここ、気になるなぁって」


 コンコンと。チルトはカラー姉さんの部屋と物置の間の壁を叩く。


「物置開けていい?」

「う、うん。いいけど……」


 そこは掃除用具とかしか入ってないし。

 チルトはいったい、なにが気になるんだろう?


「やっぱり。部屋の大きさとドアの位置がおかしい」

「……? どういうこと?」

「たぶんこの壁を……こう、いじったりするとー……」


 チルトが廊下の壁をすすすっとさわっていくと、


 カチッ!


「お? あったあった。えいっ」

「チルト? なにをして……えぇぇ!?」


 ガララララ……。


 壁の一部が少しだけ奥に引っ込み、そのまま引き戸になって横にスライドした。

 そしてその向こうに、物置と同じ広さの部屋が姿を現わす。

 これって、もしかして、


「か、隠し部屋!?」

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