51「カルテルト邸」クランリーテ
「おじゃましまーす」
「ん……いらっしゃい。どうぞ、入って」
いつまでも外から家を眺められても困るので、みんなに中に入ってもらう。
「玄関ひろーい!」
「玄関ホールのある家、初めてお邪魔したわ……。お金持ちって噂、本当だったのね」
「そんな噂流れてるの……? 家が大きいのは父さんが建築関係の仕事してるからだよ。自分で建てたから色々と自由が利いたみたいで」
「クラリーちゃんのお父さんが建てたの!?」
「すっごいなぁ。ボク、なんかワクワクしてきたっ」
「た、ただの家だよ? みんな普段からもっと大きな校舎を見てるんだから、そんなに驚かなくても」
「えーっと……クラリー、家と学校を比べるのは間違ってると思うよ」
「そっ……そっか、そうだね」
言われてみればその通りだった。
さすがに一度来たことのあるナナシュは落ち着いてるけど、あとの三人のテンションが異様に上がってる。
まぁ確かに、一、二階吹き抜けの玄関ホールなんて私も他に見たことがない。
少し手を加えるだけで宿屋が開けそうなくらいには客間がある。
というか部屋数が多すぎて掃除の手が回らず、たまに掃除代行にお願いしたりしているほどだ。
……やっぱり私の家って、特殊に感じるほど大きいのかな。
自慢してるって思われてないよね?
ちょっと恥ずかしくなってきた。
「みんな、いらっしゃい」
その声に振り返ると、いつの間にか母さんがチルトの後ろに立っていた。
「っ――――!?」
瞬間チルトは飛び上がり、慌てて距離を取って振り返る。
……背後に立たれて驚いたのかな?
「母さん。どこか行ってたの?」
「ごめんなさい、ちょっと買い物に行ってて」
両手に抱えた籠の中に入っているのは、たぶん晩ご飯の食材。合宿の話をしたらなにか作ってくれると言ってくれた。
「クラリーのお母さん。お邪魔しています」
「こんにちは! お邪魔してます!」
「お邪魔しています。ほら、チルも」
「う、うん。お邪魔してます」
みんなそれぞれ母さんに頭を下げる。
「ナナシュちゃん久しぶり。みんなもお行儀がいいのね。気を遣わず、くつろいでね。あ、魔法の練習をするんだっけ?」
「うん。あとで屋上使うよ」
「そう。私はこれをしまってくるから。がんばってね」
そう言って母さんはホールから出て行く。
さて、私たちは……。
「クラリーのお母さん、若いわね……」
「うんうん! わたしも思った」
「まぁ……二〇歳の時に結婚したって言ってたから、そうかもね」
あとは、黒に近い紺色の髪を活発そうなショートカットにしているのが、余計にそう見えるのかもしれない。
「ね、クラちゃんのお母さんって、何者?」
チルトがおそるおそるという感じで、そんなことを聞いてくる。
「えぇ? 何者って……?」
「ぜんっぜん気配感じなかった! あんなに近寄られてたのに……」
「それであんなに驚いてたの? 何者って言われても、結婚前はどこかの飲食店の店員さんだったとしか聞いてないよ」
「えー? そうなの? じゃあさっきのは……?」
「そんなの、チルがはしゃいでて気が付かなかっただけでしょう。おおげさよ」
「むー……ま、そうだよね。うん」
チルトは納得したようで、うんうんと頷いている。
確かに母さんはテキパキとよく動くしアクティブな人だと思うけど、チルトが驚くようなすごい人ではないと思う。気にすることじゃないはずだ。
「じゃあ、そろそろ魔法の練習をしようか。屋上に案内するよ」
「もう始めるのー? せっかくだからこの広いクラちゃんのおうちを探検したいな」
「あ、わたしも! クラリーちゃんのお部屋とか見たい!」
「クラリーの部屋!? ……そ、そうね。あたしも、見てみたいかも」
「だ、だめだよ! 私の部屋を見たってなんにもないよ?」
「確か、本がいっぱいあったよね。クラリー」
「あー! いいなぁナナシュちゃん。入ったことあるんだ?」
「ずるーい。ボクたちにも見せてよー」
「そ、そうよ。不公平よ」
「はぅ、えっと……ごめんなさいっ、クラリー」
「はぁ……しょうがないなぁ。屋上に向かいながら家の中を案内するよ。部屋は見せないけどね」
私の部屋は死守する。なんとしても。
*
私の家は三階建てで、一階は玄関ホールや父さんが家で仕事をする時用の部屋と、応接間、浴場がある。二階はリビングとキッチン、客間。三階に私たちの私室がある。
玄関ホールのある真ん中は切妻屋根だけど、左右は広めの屋上になっていて、そこで私はいつも魔法の練習をしていた。
みんなを二階の客間に通して荷物を置き、屋上に向かいながら案内していく。
そして……。
「ふおおおお! ここがクラリーちゃんのお部屋?」
「ナナシュが言ってた通り、本が多いわね。なるほど、なるほど」
「あ、あんまりジロジロ見ないでよ……」
結局私の部屋を見せることになってしまった。守りきれなかったよ。
ま、一応片付けておいたんだけどね。危なかった。
「んー、女の子っぽいものは少ないねー」
「うっ……」
「そういえばクラリー、私が前に来た時、花を飾ってみたいって話してたよね?」
「な、なかなか買いに行く暇がなくって」
買ったはいいけど枯れそうになり、母さんに預けてしまったなんて言えない。
「あら? なによ、こっちの棚にはお人形……っぽい、なにかがあるわね」
サキが見ているのは本棚の隣りの棚。
そこには、奇妙な顔をした木彫りの像や、色んな動物がびっしり描かれた卵形のオブジェ、頭に手のひらのようなものがくっついた人形……などが置かれている。
「そう、これがクラリーの趣味なのね……」
「ちがうから! これは貰い物で、飾らないわけにもいかなくて! ほ、ほら、もう出てよ!」
これ以上見られるのは恥ずかしい。私は四人を部屋から追い出して廊下に出る。
「あ、ねぇクラリーちゃん。隣の部屋は誰のお部屋?」
「アイリン、そこはだめだよ。姉さんの部屋だから」
「ラワ王国に留学してるお姉さん? キラルテートさんだっけ」
「よく覚えてたね。でもキラル姉さんの部屋はこっち、反対側の隣りだよ」
「あ、そうなんだ。……うん?」
みんなの顔に、?マークが浮かんでいる。
……あ、そういえば言ってなかったっけ。
「そっちは一番上の姉さん、カラー姉さんの部屋だよ」
「えっ!? クラリーちゃん、もう一人お姉ちゃんがいたの!?」
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