クラフト8 カルテルト家の秘密
50「家においでよ」クランリーテ
「こっ、ここっ、これがクラリーちゃんのおうちなの!?」
「アイリン驚きすぎだよ」
「いやぁクラちゃん、これはでかすぎだよ」
「下手な宿屋より立派よね……」
「それは……あまり否定できないけど、でも」
「私は一度お邪魔したことがありますが……。やっぱり大きな家ですよ、クラリー」
「うっ、ナナシュまで」
城下町の中央北側にある私の家の前に。未分類魔法クラフト部の面々が集まっていた。
私の家は、よくある一戸建ての家を三つくらい横に並べてしかも三階建てという、確かに大きな家だった。初めて見る人が驚くのも無理はないんだけど、あんまり騒がれても恥ずかしい。
どうしてみんなが私の家に集まることになったのか。
それは、三日前に学校で発表された学期末試験の内容がきっかけだった。
*
「普通の四属性魔法の試験とは別に、自由課題の試験かぁ。はぁ……どうしよう」
放課後、部室に集まった私たち五人。アイリンはため息をついて机に突っ伏してしまう。
六の月が終わろうとしているこの時期。来月行われる学期末試験の内容が発表された。
四属性魔法の実技試験や魔法道具作成など基本的な試験に加えて、自由課題による試験がある。冒険科や医療薬学科にもあるらしい。
自由課題。具体的に言うと、生徒それぞれが得意なものを披露する試験。
例えば私なら、呪文なしで魔法を使いまくる。
実際それでいいか先生に相談したら、まったく問題ない、十分過ぎると言われた。
「アイリンちゃん。未分類魔法の発表だと、やっぱりだめなの? 例の魔法じゃなくても色々あるんですよね」
「それがね~、ナナちゃん。おばあちゃんに止めた方がいいって言われちゃったんだ~」
「あら……」
アイリンのおばあちゃん、オイエン・アスフィール先生は風属性魔法のエキスパート。いつの間にか相談に行ってたみたいだ。
「どうしてダメなのよ? この間のボイスボックスならいけるでしょう?」
「私もそう思ってたんだよ。でもね……未分類魔法はこの学校の授業で教わるものじゃないから、試験に合格できないかもって」
「あぁ……言われてみれば、そうね」
そういえば担任の先生も言っていた。自由課題は得意なものならなんでもいいけど、なるべく自分の科に関係あるもの、属性魔法科なら属性魔法に関するなにかが望ましいと説明していた。未分類魔法は確かにダメかも。
「アイちゃん、普通の属性魔法の試験もヤバイんじゃないの?」
「そうなんだよ~チルちゃん! ただでさえダメのに、自由課題もダメだったら……わたしもうこの学校にいられないよ~」
よっぽどのことがなければ退学なんてないと思うけど……。
もし属性魔法を全部落としたら、それはよっぽどのことかもしれない。
「しょうがないな。アイリン、私と組んでみる?」
「……え? クラリーちゃんと?」
「言ってたでしょ? 二人一組で自由課題の試験を受けていいって」
「うん、言ってたけど……でも、わたし絶対に足引っ張っちゃうよ」
「そこは試験までの間で頑張ろうよ」
「ふおぉ……クラリーちゃぁん!」
「うわっと」
アイリンがキラキラした目で私に抱きついてきて、よろけそうになった。
アイリンはついこの間、遠くの人と話す魔法の改良にやっと取りかかれるって喜んでいた。
私の言葉がヒントになったみたいなんだけど、具体的なことは教えてくれない。でもアイリンの中ではもう完成が見えていて、悩んではいないみたいだから、このまま突っ走ってもらおうとみんなで話し合った。
その矢先に、学期末試験の自由課題。
ここで彼女に足を止めてもらいたくない。
「でもクラリー、実際どうするのよ? 今からどんなことするか決めて、その練習もとなると、やっぱり時間ないわよ?」
「……そうなんだよね」
まずはアイリンにもう少し属性魔法を使えるようになってもらわないと。基本の試験もあることだし。そうなるとサキの言う通り、かなり時間がない……。
「んー、じゃあさクラちゃん、合宿とかどう? 未分類魔法クラフト部で」
……合宿?
「合宿! いいねーチルちゃん!」
「チル、それどこでやるのよ」
「どっか広いとこで適当に?」
「アテはないのね。野宿はダメよ?」
「夏休みじゃないから、私、あまり遠いところは難しいです」
「それもそっか。ん~近場でどっかないかなぁ」
「学校は寝るところがない……わよね? あるのかしら」
「そもそも許可が下りるかわかりませんね……」
「う~ん……」
なかなかいい案が出ない。
私は……一箇所心当たりがあるんだけど、言うのを躊躇っていた。
するとアイリンがちょっぴりしょんぼりした様子で、
「みんな、ありがとね。クラリーちゃん。やっぱり時間がないから、自由課題は一人で……」
「待って。……じゃあ、私の家においでよ」
「え? クラリーちゃんのおうちに……?」
「そ。私の家で合宿しよう」
そんなわけで、合宿をすることになったのだ。
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