47「本気の本気」クランリーテ


「ま、魔法? 水属性の!?」

「なんでよ! 武術科でしょあの子!」


「武術科でも属性魔法の基礎くらいは学びますよ」


 私とサキの驚きの声に、ハミールが答える。

 ちなみにチルトはすぐに立ち上がってハミールから距離を取っていた。


「……と言いましても。驚くのも当然ですね。魔法を使う武術者は珍しいですから」

「いつの間にそんなこと覚えたの? ハミ」

「ラワの高校に入ってからですよ。強くなるために、どうするか。必死に考えた結果、魔法を組み込むことにしたのです」


 そういえば、と今頃になって気付く。

 私の魔法、氷の壁を破った時……白い煙、つまり蒸気が出ていた。あれは彼女が火属性魔法で氷を溶かしたからだ。

 風の塔外周で一気に距離を詰められた時も風が吹いていた。あれも風属性魔法で自分に追い風を吹かせて、スピードを上げていたんだ。


 魔法剣術。

 武術で魔法を越えるをモットーにしている国では、なかなか受け入れられない戦い方のはず。反発も大きかったと想像できる。それでも彼女は、強くなるためにその道を選んだんだ。


「チルト。これが、今の私の本気です」

「なるほど、ね。そっか。そっかそっか。じゃあボクも……本気の本気を見せないとね」

「……ふふ、そうこなくては」


 びしょ濡れになったチルトが、ナイフを持った腕を振って水を切る。

 ハミールも木剣をチルトに向けて油断なく構える。


「それじゃ、いくよ」


 チルトが低い姿勢で駆け出す。これは、さっきと同じ?

 ハミールが剣を振り上げ、狙いを定める。でも……真上じゃない。剣を斜めにし、左肩の上に。


 チルトはそのまま駆け、剣の間合いに入る直前――飛んだ。


「それが本気ですか、チルト!」


 頭上を越えようとするチルトを目で追わず、身体を捻り、振り返り様に着地点目がけて剣を振る。タイミングは完璧だった。ハミールはチルトの跳躍距離を完全に見切っていた。でも……


 左肩から右足元に、回転による遠心力を乗せた鋭い一撃は、空を切った。


「い、いない? どこに……!!」


 背後どころか左右にもチルトの姿はない。ハミールは完全にチルトを見失っている。

 ……私たちからは丸見えなんだけど。


「くっ……くく、あはははは! かかったね、ハミ!」

「えっ………………はい?」


 ハミールの頭上に、逆さに浮かぶチルト。右手には木のナイフ。左手には――漆黒のナイフ。魔剣、浮遊導剣フローティング・ナイフ

 空中で魔剣を抜き、滞空していたのだ。

 ようやく戻った、いつもの楽しそうな笑顔で。


「な、なんで、浮い――」


 ――ズダンッ!!


 ハミールが言い終えるより速く、チルトが落下する。

 土煙が上がる中、チルトは一瞬でハミールを組み敷いていた。

 木のナイフを首元に当てて、


「勝負あり、だよ。ハミ」

「参りました。……魔剣を持っているとは聞いていましたが……なるほどです」

「へっへへー。さ、これに懲りてもう勝負なんて仕掛けてこないでよ?」


 そう言ってナイフを引っ込め、笑いながら立ち上がるチルト。


 サキの言う通りだった。チルトは……強い。これほどまでとは思わなかったけど。


 ハミールは剣を支えにして立ち上がり、チルトに向かい合う。そして、


「……なにを言うのです。お互いの本気が、手の内が見えた今こそ、最高の勝負ができるというもの。さあ、もう一度ですよチルト!」

「はああぁ? もー、いい加減に――」


「いい加減にしてください!」


 チルトの代わりに叫んだのは――私の隣で見ていた、ナナシュだった。

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