44「一番強いのは?」クランリーテ


「いざ、しょう――ぶわっ!」


 突っ込んできたハミールの顔に風の塊をぶつけ、私は駆け出した。

 本当はこういうの苦手なんだけどな……。


「ひゅー、さっすがクラちゃん」

「チルト~……」


 併走するチルトを軽く睨む。

 後ろには一緒に逃げ出したアイリンとサキ。さらに後ろからハミールが追いかけてくる。


「ごめんごめんって。クラちゃんならハミの相手大丈夫でしょ?」

「そういう問題じゃないよ……」

「適当にあしらってくれていいからさ。ね、お願い!」

「……しょうがないなぁ」


 あしらってと言われても、どうやって?

 あんまり強い魔法を使うわけにもいかないし、走って逃げ切るのも難しい。体力的に。

 どこかで足止めをするしかないかな……。


 私は階段を一階まで駆け下り、風の塔との間の中庭に飛び出す。


「サキ、さっきの魔法借りるよ」

「え? 借りる?」


 振り返り、腕を入口に向ける。

 魔法をイメージする。炎よりも……強固な壁を。

 後ろを走っていたアイリンとサキが出て来ると同時に、私は魔法を発動した。


「アイス・ガード!!」


 水属性の派生、氷属性魔法。キンッという甲高い音と同時に入口が氷で塞がった。


「借りるってそういうこと? ファイア・ガードの応用……さすがね」

「よし、いまのうちに逃げよう」

「逃げるってどこに? クラリーちゃん」

「うーん……やっぱり部室かな」

「そうだねー。風の塔はいっぱい部屋があるし、ハミじゃ見付けられないはずだよ」

「決まりね。さ、行きましょ――」


 ――バシュッ!!


 風の塔に向かおうとしたところで、背後からそんな音が聞こえた。

 振り返ると、氷の壁に大きな穴が空いていて、辺りに白い煙が充満している。

 その向こうには、剣を突き出した格好のハミール。


「これくらいの氷で私を足止めできると思いましたか?」

「……さすが武術科」


 穴をくぐって中庭に出てくるハミールに、私は身構える。

 まさか足止めにもならないなんて思わなかった。

 やるしかないの? 実技や訓練でも、人に魔法を使うのは苦手なんだけど……。


「しかし、呪文も無しでこれだけの氷の壁を出せるとは。素晴らしいです。クラ……ちゃん。できれば、ちゃんとしたお名前を教えていただけますか?」

「クランリーテ・カルテルト、だよ」

「……カルテルト? なるほど、あなたが……」


 ハミールの目が見開き、驚いた顔を見せる。

 この反応は……?

 しかしハミールはすぐに冷静な顔に戻り、


「それともう一つ。先程、部室という言葉が聞こえてきました。あなた方はなにかの部に所属しているのですか?」

「え? あぁ、うん……まぁね。みんな同じ部だよ」


 何部なのかは答えないでおく。逃げ場として部室を確保しておきたいから。


「ちなみにわたしが部長です」


 ふんぞり返るアイリンに、ヒヤッとする。頼むから部の名前言わないでよ……。


「部長? あの、あなたの部にチルトもクランリーテも、二番の方も所属しているのですよね?」

「サキよ! ……それがどうかした?」


 二番の方と呼ばれたサキがギロっとハミールを睨む。

 だけどハミールは気にも留めず、アイリンを見ている。


「部長さん、お名前を教えていただけますか」

「アイリン・アスフィールだよ! よろしくね、ハミールちゃん!」

「アイリンさんですね。こちらこそ、よろしくお願いします」


 ハミールはそういうと、礼儀正しくアイリンに頭を下げる。

 アイリンが釣られて頭を下げ、ハミールが顔を上げると――剣を構えた。


「……あれ? これってまさか」

「まずいわね……」

「アイちゃん、ちょっとこっちに!」

「うん? なになに? チルちゃん」


「チルト、邪魔をしないでください。あなたちをまとめる部長……つまり一番強いということですよね。さあ勝負です、アイリンさん!」


「……えぇ? わたし!?」

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