43「勝負って言われても」クランリーテ


「ボクの従妹のハミだよ!」

「……ハミール・フランベルです。紹介するならちゃんとした名前でお願いします」

「相変わらずハミは細かいなぁ」


 私たちを挟んで言い合いをするチルトと、その従妹のハミール。

 なんだろうこの状況。

 そう思っていると、サキが後ろのチルトに問いただす。


「ちょっとチル。勝負ってなんなのよ」

「そのまんまだよ。いきなり勝負しろって言ってきてさー。朝からずーっと、休み時間のたびに来るからめんどくさくて」

「面倒くさいって言いましたか? 私はちゃんと理由を話しましたよ!」

「強い人と戦いたいって言われてもボク知らないよ。他を当たってくれない?」

「違いますよ。この学校、この学年で一番強い人と戦いたいんです。そして私はチルトの強さを知っています。あなたが一番のはずです。さあ、勝負です!」

「あーもー話が通じないなぁ」


 ……チルトとは別の意味で元気な人だな。

 チルトは運動神経抜群で冒険科でも成績優秀。でもどうやら武術の強さを競うのは興味がないみたいだ。

 出会ってまだそんなに長くはないけど、遺跡探索のことで頭がいっぱいなのはよく知ってる。


 だけどハミールはお構いなしのようだ。


「そうやって後ろに隠れるのなら、仕方ありませんね。引きずり出しましょう!」


 そう言うと、剣を構えて真っ直ぐ突進してくる。って、私たちごと斬るつもり?


「守りの力、炎の印――。いい加減にしなさいよ? ファイア・ガード!」


 呪文。サキが手を伸ばすと、目の前に炎の壁が現れた。

 厚みはないが、突っ込んで通り抜けるのは躊躇する。


「――っ! 邪魔をしないでください」


 彼女も寸前で止まってくれたようだ。炎の向こうから抗議の声が聞こえてきた。


「サキー! ありがとー!」

「はぁ……。話には聞いてたけど、これは本当にめんどくさい子ね」

「面倒くさくありません。私は正々堂々勝負を挑んでいるだけです。……あなた、もしかしてサキさんですか?」

「ええ、そうよ。サキ・ソウエンカ」

「なるほど……。私もチルトから聞いています。すごく強い魔法士の幼馴染みがいると」

「すごく強いって、もう、チルったらなにを言ってるのよ……ん?」


 一瞬嬉しそうな恥ずかしそうな顔を見せたサキだけど、すぐに怪訝な顔になった。

 魔法が解けて炎の壁がなくなり、ハミールの姿が現れる。

 彼女が見据えているのは――。


「私は、相手が魔法士でも構いません」

「……え? あ、ちょっと、ウソでしょ?」

「ターヤ王国に来ているのです。魔法士が強いことくらい承知の上です。さあ、一番強い魔法士サキさん。私と勝負してくれますね?」

「い、いやよ! なんであたしがっ」


 サキが一歩後ろに下がると、ハミールも一歩前へ。


「そーだよハミー。サキと戦うなんて間違ってるよ」

「チル……!」

「サキは学年二位だから、一番強いわけじゃないよ」

「なっ……! 確かにそうだけど、そうだけどー!」

「ひたいひたい」


 サキは後ろにいたチルトの両頬を引っ張る。なにやってるんだ……。


「先程の魔法、かなりの練度でした。それでも学年二位……。トップはどれほど強いのでしょうか。チルト、学年一位はどこに?」


 あ、これまずい流れだ。適当に誤魔化そう。じゃないと今度は私が――


「学年一位はこっちのクラちゃんだよ」

「って、チルトー!!」

「素晴らしい、まさか一位も一緒にいるとは……」

「……あれ? まずかった?」


 ゆらりと、ハミールが剣を持ち上げる。


「では、クラちゃん……でしたか。勝負しましょう。いいですね?」

「わ、私だってイヤだよ!」


 勝負だなんて冗談じゃない!

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