クラフト7 ラワ王国の武術科

42「ラワ王国からの留学生」クランリーテ


「あら、二人とも部室に行くところ?」

「サキちゃん! うん、そうだよ~」

「じゃ、一緒に行きましょ」


 放課後、アイリンと一緒に教室を出ると、廊下を歩くサキと鉢合わせた。

 サキも部室に向かうところだったみたいで並んで歩き出す。

 六の月になり、制服は夏服になった。ブラウスは半袖に、ブレザーから赤いベストに。それでもターヤの夏は暑く、時折魔法で風に当たらないとやってられない。


「そういえばアイリン。例の魔法はあれからどうなのよ?」

「あ、それ私も気になってた」


 例の魔法。もちろん遠くの人と会話をする魔法のこと。そういえばまだ名前も決まってない。

 チルトからスマート鉱石をもらって喜んでいたけど、それから話を聞かなくなってしまった。


「うっ……えっとね、実はちょっと行き詰ってて」

「行き詰って?」

「あの魔法、声がその人にだけ聞こえるようにしたいんだけど」


 一応小声で話すアイリン。多少は警戒することを覚えたらしい。


「今までの魔法を改良してそれをやろうとすると、上手くいかなくって。せっかく使えるマナが増えてできることの幅が広がったのに……」

「ふぅん? 魔法そのものの改良に手こずってるわけね」

「なるほど……」


 鉱石の問題は解決したけど、今度は魔法をどういう作りにするか悩んでいるわけだ。


「アイリン、そういうことならみんなに相談してくれたらよかったのに」

「そうよ。みんなそれぞれ得意な分野があるんだから。なにかヒントが出てくるかもしれないじゃない」

「……うん、そうだよね。ごめん、なんかちょっと慎重になり過ぎてたかも」

「アイリン……」


 ひょっとして、こないだのボイスフェザー事件(命名サキ)のことを気にしているんだろうか。あの時は確かに大変だったけど、でも。


「へんなこと気にしてるんじゃないわよ」

「サキの言う通りだよ。むしろ、尚更相談してよ」

「わかった。二人とも、本当にありがとっ。部室にみんな集まったら詳しく説明するね!」


 なにに困ってるのか気になったけど、確かにここで話すことじゃない。

 チルトとナナシュもいた方がいいし、部室まで我慢しよう。


「スマート鉱石をくれたチルちゃんにも申し訳ないもんね。早く完成に近づけなきゃっ」

「あ、チルで思い出したんだけど……。二人とも、ラワ王国の留学生が今日から来てるの知ってる?」

「えっ……ラワ王国から?」

「へ~、そうなんだ? 知らなかったよ。でもラワ王国って魔法よりも武術なところだよね?」


 私もアイリンと同じ疑問を抱いて、揃って首を傾げる。

 ターヤ王国の西にある、ラワ王国。

 己を鍛え、武術で魔法を越える。を、モットーにしている国で、ある意味ターヤとは真逆の国だ。武術者だけでなく技を身に付けたい探検家志望も集うと聞く。

 そんな国の学生が、魔法を主体とするこの学校に留学とは……珍しい。


「属性魔法科の私たちが知らないってことは、その人は冒険科なの?」

「そうね。もともとは武術科みたいだけど、うちには無いから」


 なるほど。向こうの学校は属性魔法科が極端に少なく、代わりに武術科がある。もっとも武術のみを極めるという人はそこまで多いわけでなく、一番多いのは冒険科だとか。

 うちの13クラスの割合に置き換えると、武術科3クラス、冒険科6クラス、医療薬学科3クラス、属性魔法科1クラス、という感じになるらしい。


 それにしても、ラワ王国の武術科か……。


「じゃあチルちゃんのクラスだね~。あ、だからサキちゃんが知ってたんだ」

「そっか、なるほど」


 この学校は冒険科が一つしかない。自然とチルトのクラスに留学生が来たことになる。

 チルトの名前で思い出したっていうのも、前もって彼女からその話を聞いていたからか。


「チルも昨日の夜に聞いたそうよ」

「って、あれ? 昨日の夜なの?」

「ええ。その子――あ、留学生は女の子なんだけど――どうも、チルの従妹らしいのよ。同い年の」

「そうなの?」

「へ~! チルちゃんの従妹かぁ。どんな子だろう? 会ってみたいな~」


 チルトの従妹……。彼女と同じで元気な感じなのかな。


「おばさん――チルのお母さんがラワ出身で、確か妹の娘って言ってたわ。あたしも会ったことないのよね。話には聞くんだけど、こっちに遊びに来たことがなくて」

「そうなんだぁ。あ、じゃあ今から冒険科に行ってみない? まだいるかもしれないよ!」

「……そうね。あたしも会ってみたいし、行ってみる? クラリー」

「うん。私も気になる」

「決まり! じゃあ13組に……あれ?」


 もう風の塔への連絡通路まで来ていたけど、戻るために振り返ると……。


「いい加減にしてよー。ボク用事があるんだから!」

「ダメです、待ちなさいチルト! 私との勝負の約束、破るつもりですか!」

「そんな約束してないよ! もーまた勝手に決めて!」


 廊下の向こうからドタドタと駆けてくるのはチルトだ。誰かに追いかけられているみたいだけど……まさか。


「あっ、サキ! みんな! ちょうどいいところに。かくまって!」

「ちょっと、チル?」


 匿う? チルトは私たちの後ろに回り込み、サキの腰を掴んで背中に隠れた。


「卑怯ですよ、人の後ろに隠れるなんて。出てきなさい。正々堂々勝負しなさい!」


 追跡者が私たちの前に立つ。

 私たちとは違う、真っ白なブレザーにスカート。中のシャツは黒。

 健康そうな褐色の肌。紫色の長い髪はツインテールにしている。

 そして……手には訓練用の木剣が握られていた。


「チルト、もしかしてこの子が……噂の留学生?」

「うん。ボクの従妹のハミだよ!」

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