41「おやすみなさい」クランリーテ
「では私は研究室に戻りますよ」
「あ、待ってください。オイエン先生」
立ち去ろうとする先生を、私は思わず呼び止めた。
ちょっと気になっていたことがあるのだ。
「なんですか? クラリーさん。今の講義の質問かしら?」
「い、いえ、ぜんぜん関係無い疑問なんですが……。オイエン先生が未分類魔法クラフト部の顧問なのは、アイリンが立ち上げた部だからですか?」
「あら。風属性の研究者が未分類魔法の部なんて! と、思った?」
「う、あ……はい」
疲れていたのもあって、私は素直に認める。
「あ、それは違うよ~クラリーちゃん。わたし、部は立ち上げてないよ」
「……え?」
「立ち上げたんじゃなくって、復活させたんだよ~」
「復活?」
「そういえば、そもそも一人じゃ部は立ち上げられないわよね。それなのに部室まであったし……。でも、復活ってどういうことよ?」
私とサキが首を傾げていると、オイエン先生が、
「人がいなくなって廃部になった部を復活させるには、一人でもいいのよ」
「そうなんですか? なるほど……」
つまり、以前から未分類魔法クラフト部があったってことか。
じゃあ……。
「あれー? あそこにいるのってサキたちじゃない?」
「本当です。ど、どうしました? 廊下に座り込んで……」
と、そこへ。廊下の先からチルトとナナシュが駆け寄ってきた。
「えーと……色々あって、ちょっと疲れて」
「疲れて、休んでいたんですか?」
「ふーん? 色々が気になるけど、もうすぐ昼休み終わっちゃうよ?」
昼休み……終わり?
それはつまり午後の授業が始まるということだ。
……こんな状態で受けられる気がしない。お昼も食べてないし。
いっそもう午後は……。
「三人とも、午後の授業はちゃんと出るのよ」
……ぎくり。オイエン先生に釘を刺されてしまう。
保健室で事情を話して休もう……と思ったのに、ダメそうだ。
それなら、せめて。
「ナナシュ、お願いがあるんだけど」
ナナシュを見上げて私がそう切り出すと、アイリンとサキも意図に気付いたみたいだ。私たちは揃って、
「「「疲労回復の薬ちょうだい~……」」」
「え、えぇ? それは……三人とも尋常じゃなく疲れているみたいだし、構いませんよ。でも、いったいなにが?」
「あとで詳しく話す。とりあえず……頼む」
「あたしもお願いするわ……」
「ナナシュちゃん~わたしも~……」
「は、はい。ちょっと待ってね。えっと鞄に……。チルトちゃん、前にあげたの残ってない?」
「んー、たぶんあるよ」
二人して鞄を探し始める。
よかった、せめて少しでも回復しておかないと。授業中、絶対に寝る。
「ふふ。それではね。しっかり魔法の研鑽をするのですよ」
オイエン先生はそう言い残して、廊下を歩き去ってしまう。
「クラリー、いまのは属性魔法科の先生ですか?」
「ボク、あの人どっかで見たことあるよーな……ないよーな?」
「ぜんぶ、部活の時に話すよ」
結局どうして未分類クラフト部の顧問なのか聞けなかったなぁ。
アイリンが部を立ち上げた……じゃなくて、復活させたからだとは思うけど。
部の復活。それって、過去に未分類魔法クラフト部を立ち上げた人がいるってことだ。
……もしかしてオイエン先生が当時の部員だったり?
「まさか、ね」
私がそんなことを考えていると、
「クラリーちゃぁぁん、わたしもう限界だよ~」
「あたしも……ねむ……」
両サイドの二人が、真ん中の私に寄りかかってくる。
「だ、ダメだよアイリン、サキ。ずるい……じゃなくて、起きて。ナナシュ、早く、薬を……」
「はうっ! 起きて、三人とも~」
「あーあ。無理矢理飲ませるしかないかな、これ」
*
あの後ナナシュの薬を飲んでとりあえず教室には戻れたけど、あれだけの疲労がすぐに回復するはずもなく……。午後の授業が始まると必死に眠気と戦うことになった。
でも……やばい。頭がぼーっとして授業内容がまったく入ってこない。起きてるのがやっとだ。せめて実技だったらよかったのに。余計疲れるだろうけど魔法を使っていた方が起きていられる。
ちらっと横目で見ると、アイリンはがっつり寝ていた。そして……あはは、先生に叱られてる。
一番大変だったから仕方ないとは思うけど……私だって頑張って起きてるんだから、アイリン……もうちょっと……頑張れ――
「お、おい見ろよ、クランリーテが寝てるぞ?」
「そんなクランリーテさんが居眠りなんてするわけ……してる! しかも笑ってる?」
「はぁ……その微笑が素敵っ。クラリーさん!」
「な、なんかドキっとするな……」
「私も……クラリーさんの寝顔見てたらドキドキして……なんだろうこの気持ち……」
「クラリーちゃぁぁんっ。起きて! わたしだって頑張って起きてるんだから、起きてよー」
「どうしました? あら……え? ク、クランリーテさん? えっ?」
「せ、先生、クラリーちゃんには事情があって、そのっ」
ふふっ。アイリン……また叱られてる……。
未分類魔法クラフト部
クラフト6「オイエン先生の魔法の講義」
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