40「失敗すること」クランリーテ
私とサキが起こした風が、学校に広がっていくのがわかる。
本校舎を駆け抜け、外に飛び出し塔の中に入り込み、さらに、さらに。
誰も気に留めないような、弱く優しい風が。学校全体に吹き……。
「できた……のよね?」
「うん、できたよ! サキ!」
「――――!?」
私は思わず、重ねていた手のひらの指の間に指を入れて、ぎゅっと掴んで喜びを伝える。
風は学校全体に吹き抜けた。魔法は成功だ。あとは……。
「――先生、アイリンは!?」
手を離してしゃがみ込み、アイリンの様子を見る。
心なしか、呼吸が落ち着いてきたような……。
「成功ね。アイリンちゃんの魔法、ボイスフェザーだったかしら? 止まったみたい」
「よ……よかったぁ」
「うっ……ご、ごめんね……クラリーちゃん」
閉じていたアイリンの目がうっすらと開く。
「謝らないでよ。今回のは、魔法が発動する直前に話しかけた私も悪いんだから。むしろ、ごめん」
「ううん。欠陥に気付かなかった、わたしの……せい。助けてくれて、ありがとね。サキちゃんも」
「そうだよ、サキにもお礼を……って、どうしたの? サキ。顔赤くない?」
「なっ……なんでもないわよ! ちょっと疲れただけ……」
立ったままだったサキは、そういうとその場にしゃがみ込む。ちょっとって言うけど、かなり疲労してるような……。
「サキ? だいじょう……ぶ? あれ?」
しゃがんだままサキの方に体を向けようとして、フラっとよろける。思わず床に手をついてしまった。
「あ、あれ? なんか力が……」
「あなたたち、ここまで広範囲の魔法は初めてでしょう? 合同魔法も」
「は、はい。そうですけど。……まさか、これって」
私は思わずアイリンを見てしまう。
「そう、アイリンちゃんと同じよ。大きな魔法を使ったあなたたちは、いま疲労状態なの。城下町の外周を休み無く一周走りきったくらいの疲れ具合かしら?」
魔法を使ったすぐ後は気付かなかった。でも、言われてみると……とんでもなく体が重たくなってる。一周走り切った? ううん、まるで一日中走り回ったくらいの……うぅ、だめだ、このままここで眠ってしまいたい。
「ほら、こんなところで寝ちゃダメよ。アイリンちゃんも起きて。自分で座りなさい」
「うぅ……は~い……」
アイリンがゆっくり体を起こし、廊下の壁に寄りかかって座る。私とサキも這うようにしてその隣りに並んで座った。
「では、少しだけ特別講義をしましょう」
「こ、講義、ですか?」
それはとても嬉しくてありがたい……ことなのだけど……疲れていて、それどころじゃないという気持ちもあった。失礼だとわかっていても、今なにか話をされても頭に入る自信がない。
だけど先生はお構いなく、話を始める。
「みなさん、古代遺跡のことは知っていますね? 世界各地に点在し、魔剣が眠っていることもあります」
私たちは黙って頷く。声を出す気力も無い。
「古代遺跡とは、過去に栄えていた文明の跡です。その文明は私たちと違う技術、魔法で栄えていた。それどころか属性魔法はほとんど使われていなかったのではないか、という調査結果も出ているの。つまり……私たちの文明とは繋がりがない、ということを示しているわ」
……うん、そうなる。私たちには古代文明の技術や魔法は伝わっていないから。
知識は途絶え、未知の道具として魔剣が残った。
「古代文明は、大昔に滅んでいるのです」
「…………」
「古代文明が滅びた理由は判明していません。遺跡探索をしても手掛かりすら掴めていないのが現状ですね。私たちとは違う魔法技術を持ちながら、どうして滅んでしまったのか……。その理由がわからない限り、私たちは属性魔法を研究する必要があるのです」
「……え?」
滅んだ理由がわからないから、属性魔法を研究する?
「魔剣には、理解の及ばないとんでもない魔法が宿っています。ですが古代文明は滅びた。ならば、私たちは別の道を進まなければならないのです」
「あ……」
そっか、オイエン先生の言いたいことがわかった。
「古代文明は、魔剣に宿る未知の魔法が原因で滅んだ可能性がある。魔法でなにか失敗をして、それで滅びた。というのが、今のところ有力な説になっているわね。だから私たちはまず、属性魔法でそれに対応できるだけの技術を身に付けなくてはいけないの。わかるかしら?」
「……はい」
未知の魔法の研究が、滅びを招く可能性がある。
ならば、それを抑えるだけの力を用意しよう。
……これが、ターヤ王国が属性魔法を中心に研究する理由なんだ。
「あなたたちは今日、魔法が失敗することで、どんなことが起きるのか……よくわかったと思います。一歩間違えれば大変なことになっていた。わかりますね?」
「はい……」
「魔法を創り出す時は、失敗することも視野に入れて対策を考えること。いいですね?」
「……はーい」
「気を付けます……」
「わかり、ました……」
私たちは少しだけ体を起こして先生に頭を下げ、
「「「すみませんでした~……」」」
力なく謝るのだった。
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