38「すぐ助けるから」クランリーテ


 二階の廊下を駆けながら、私は魔法のイメージを作る。

 黒い羽根に当てる魔法はなんでもいい。必要なのはスピードと精度。威力は必要ない。人が側にいるだろうから、当たってしまわないように小さい方がいい。

 威力は殺せると思う。問題は大きさとスピード。

 スピードを出すにはマナが多く必要だから、ここはやっぱり……。


(圧縮のイメージ――)


 マナを固める。小さく、小さく。込めたマナのほぼすべてをスピードに費やす。

 撃ち出す魔法の形は――。


『なに? いまの声。どこから聞こえたの?』


 どこからか声が聞こえ、


「――黒い羽根! 見付けた、ウィンドフェザー!」


 私は白い羽根を手のひらから撃ち出す。

 黒い羽根は女の子がいま正に触れようとしていたところだった。


「なにこれ……えっ? きゃっ!」


 ふわっ……。


 ウィンドフェザーがボイスフェザーに当たると、白い羽根が弾けてそよ風となる。

 イメージ通りに魔法を出すことができた。これなら、周りの人に当たってしまっても怪我をすることはない。


「あ、クラリーさん? どうしたの血相抱えて……」


 見ると、近くにいた女の子はクラスメイトだった。


「ごめん。いま、黒い羽根があったよね?」

「なんか声が聞こえてきたけど……風で消えちゃった?」

「それ、見かけたら触らないで。なんでもいいから魔法を当てて、消して欲しい」

「え? どういうこと?」

「お願い」

「……わ、わかった。魔法を当てて消せばいいんだね? 友だちにも伝えておくよ」

「いいの?」

「うん。なにか事情があるみたいだし、それだけでいいなら手伝う」

「ありがとう、助かるよ」


 本当は自分で消して枚数をカウントしたかったけど、時間が惜しい。クラスメイトの申し出に頼ることにした。

 私は頭を下げて、廊下を駆け出す。すぐに黒い羽根を二枚見付け、消す。近くにいた二人は突然起きた風に驚いているけど、ごめんなさい、説明している時間がない。そのまま駆け抜ける。


 脳裏に浮かぶ、アイリンの苦しそうな顔。

 早く……一刻も早く、ボイスフェザーを消さないと。


「待ってて、すぐ助けるから……!」



                  *



「クラリー! そっちはどう?」


 二階と三階を駆け回り、再び二階に戻ってきたところでサキと鉢合わせた。


「私は20枚消したよ。三階より二階の方が多かったから、戻ってきたんだけど」

「あたしは16枚。これで36枚だから、あと11枚ね」

「うん。さっき、クラスメイトにもお願いしたんだけど」

「あ、それあたしもよ。もしかしてもう全部消えてたりする?」

「一度戻ってみよう」


 私たちは頷き合い、1階のアイリンの元へ向かう。



「アイリン! ……オイエン先生、アイリンは」


 見ると、アイリンはオイエン先生の膝に頭を乗せて横になっていた。

 先生は額に手を当て、回復の魔法をかけてくれている。


「枚数が減って少し楽になってきたみたいだけど、まだ全部は消えていないみたいね。アイリンちゃん、残りの枚数わかる?」


 アイリンは苦しそうに目を瞑っていたけど、話は聞こえているみたいだ。震える手で指を三本立てる。残り3枚……。


「私、四階を探してくる」

「そうね、あたしも行くわ」


「待ちなさい。だいぶ時間が経ってしまっているわ。もしかしたら研究塔の方まで行っているかも」

「そんな……」


 もし塔まで行っていたら。探すのはかなり難しい。階層も部屋の数も多い。


「――それでも! 消さないと! アイリンが……!」

「そうね、やるしかないのよ。先生、あたしたちもう一度行ってきます」


「……ふたりとも、アイリンちゃんのためにありがとうね。でもね、少し落ち着いて?」

「そんな、落ち着いてなんて!」

「一枚一枚探すのは、やっぱりもう難しいわ。それでも消したい場合、どうすればいいかしら?」

「……え? どうすればって、そんな……他に方法なんて」

「他の方法……ね。あ、でも……」


 わたしはすぐにでも駆け出したかったけど、サキはなにやら考え出す。


「あら? サキさんはなにか思いついたかしら」

「で、でも、そんなの不可能だから」

「いいから言ってみて? ……不可能なんて、決めつけてはだめよ」

「サキ、先生の言う通りだよ。なにか思いついたなら教えて欲しい……!」

「わ、わかったわよ。……その、学校全体に魔法をかけられれば……消えると思ったんだけど……」

「学校全体に魔法?」


 確かにそれなら、ボイスフェザーを一掃できる。でもそんな大規模な魔法……。


「いいアイデアね。それでいきましょうか」


「「……え?」」

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