37「ボイスフェザー」クランリーテ


「クラリーさん、サキさん。アイリンちゃんを座らせるの、手伝ってもらえる?」

「は、はい!」


 私とサキは慌てて駆け寄り、肩を貸してアイリンを廊下の端に座らせた。

 アイリンは口を開け、激しく肩を上下させて呼吸をしている。

 ……一瞬マナ欠乏症かと思ったけど、私の発作とはだいぶ違う。まるで全力疾走した後のようだ。


「オイエン先生、アイリンはいったい……」

「どうやらこのボイスフェザーという魔法には、欠陥があったみたい」

「欠陥、ですか?」

「ええ。おそらく返事をする対象に、を選んでしまうのよ。だからあなたちの間でループしてしまった」

「あ……」


 そっか、声が届いた相手の一番近くの人がアイリンとは限らない。私たちみたいに側にもう一人いたら、返事の対象はその人になってしまう。


「でも、さっきは返事をしたら羽根は消えました。どうしてループするんですか?」

「これもおそらくだけど、魔法の使用者、アイリンちゃんに返らないと魔法が消えないようになっているんじゃないかしら?」

「……あり得るわね」

「うん……」


 アイリンは返事もできないのか、荒い息を続けている。

 ループの理由はわかったけど、アイリンはどうしてこんな苦しそうにしてるんだろう。


「あっ……まさか。一連の魔法の動作、すべてアイリンのマナで行われてる?」


 アイリンがちらっと私に目を向けて、微かに頷く。

 そうか、だから……。


「え、ちょっと待ちなさいよ。アイリンはずっと魔法を発動し続けてるってこと? だからこんな……」

「そういうことのようね。このままだと、アイリンちゃんはマナを取り込み続けることになるわ」

「……!!」


 それを聞いてぞっとする。

 世界にはマナが満ちあふれている。足りなくなるようなことはない。

 だけどマナを取り込む人の方は、疲労する。延々と魔法を使い続けることは不可能なのだ。

 もしこのままアイリンが魔法を使い続ければ……。


「アイリン! 魔法を強制的に止められないの?」


 属性魔法ならそれができる。でも、未分類魔法のボイスフェザーは?

 肩を掴んで問いただすと、アイリンは……首を横に振った。

 それもそうだ、止められるならこんなことにはなっていない。

 でも、だったらどうすれば……!


「はぁ、はぁ、羽根に、魔法、当てて……」

「どういうことよ? 羽根に魔法?」


 サキはそう言って首を傾げるけど、私は咄嗟に近くの――オイエン先生の隣りに落ちていた羽根に風魔法を当てる。


 バシュッ!


 風が巻き起こり……羽根が、消えた!


「他の魔法を当てると羽根が消える!」

「なるほどね……っ! ウィンドシュート!」


 今度はサキが、さっきまで私たちが立っていた場所に落ちている羽根に風魔法を当てる。

 2枚の羽根が消えた。これで3枚。


「止める方法はわかったけど、あと47枚か……」


 周りを見ても、この廊下には私たちしかいない。羽根も見当たらない。どこにいったかわからない。でも、


「……やるしかない」

「そうね。まったく、世話のかかる!」


 ボイスフェザーはそこまで遠くに行ってないはず。

 だけど昼休み、生徒はあちこちにいる。校舎中駆け回って探すしかない。


 大変なのはわかってる。でも、やるしかない。アイリンが苦しんでるんだから。


「私はここでアイリンちゃんに回復の魔法をかけているわね。気休めにしかならないから、早めにお願いね?」

「わかりました。オイエン先生、アイリンをお願いします!」

「クラリー、あたしはこのまま一階を回るわ。二階を頼んだわよ」

「わかった。行こう! サキ!」


 私とサキは頷き合い、廊下を駆け出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る