36「成果を見せて」クランリーテ
「お、おばあちゃん? 研究室に戻ったんじゃなかったの?」
「あら。かわいい孫の顔を見に来たんだけど、だめだった?」
「ううん、それは嬉しいんだけど、でも……恥ずかしいよ~」
アイリンはチラチラとこっちを見ながら顔を赤くしている。
「ちょっとだけわかったわ……恥ずかしくなる気持ち」
状況は違うけど、友だちと話している時に家族が現れるとなんか恥ずかしいという気持ち、サキにも伝わったようだ。
とはいえ、アイリンは恥ずかしがりすぎかもしれない。有名な先生だからかな。
「この子に受験を勧めたのは私ですけどね、学長には普通に試験を受けさせてくださいってお願いしたの」
「そうなんですね。……ごめんなさい、変なことを考えようとしてしまって」
「あたしも……ごめんなさい」
サキも同じことを考えていたみたいで、一緒になって頭を下げる。
アイリンは不思議そうに首を傾げて、なんのことかわかってなさそうだった。
「頭を上げて。気にしなくていいのよ」
「はい……」
「でも口添えはしたのよね。四大属性魔法は苦手だけど、ちゃんと才能を見てあげてくださいって」
そっか、口添えを……え?
「ふふ。大丈夫よ。私にそこまでの発言権は無いわ。……この子の才能は、未分類魔法クラフト部のあなたたちがよく知っているでしょう?」
私とサキは一度顔を見合わせて、黙って頷く。
未分類魔法はもちろん、詠唱なしで魔法が使えるセンスも本物だ。
「……あれ? アスフィール先生、未分類魔法クラフト部のこと知ってるんですね」
「もちろんよ。それと、私のことはオイエンでいいわ。紛らわしいでしょ?」
そっか、アイリンもアスフィールなんだ。私たちはともかく、当人にとっては紛らわしいのかもしれない。
「そうだ! 話すの忘れてたよ。クラリーちゃん、サキちゃん。実はね、わたしたちの部活の顧問、おばあちゃんなんだよ」
「顧問……えっ、えぇ!? あ、そっかだから風の塔に部室が!」
「そういうこと? もう、早く言いなさいよね!」
「ごめん~、忘れてたんだよぉ」
申し訳なさそうに頭をかくアイリン。忘れてたって言うけど、恥ずかしくて切り出せなかったっていうのもありそうだな……。
「というわけで。顧問のオイエン・アスフィールよ。よろしくね、クランリーテ・カルテルトさん。サキ・ソウエンカさん」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。……あたしたちの名前も、ご存じなんですね」
「私は顧問よ? 当然です。それに、ふたりとも属性魔法の成績優秀者ですからね」
「――――!!」
うわぁぁぁ、ちゃんと見てくれてるんだ……!
サキなんか卒倒しかけて壁に寄りかかっている。
「そうだ。折角だから顧問らしいこともしてみようかしら。アイリンちゃん、未分類魔法クラフト部の成果が見たいわ」
「えっ、成果って?」
「あなたの部はなんのための部かしら? 新しい未分類魔法を見せてちょうだい」
新しい未分類魔法を……見せる。
私たちの成果と言えば、当然、遠くの人と話す魔法になるんだけど。
オイエン先生、あの魔法のこと知ってるのかな?
私が疑問に思うと同時に、ばちっとアイリンと目が合った。
アイリンが困った顔で微かに首を振る。……知らないってことか。
「アイリン、あれはどうかな。前に見せてくれた、ボイスボックス」
「え? あっ……うん! 実はね、あれから改良したんだよ~」
「ボイスボックス? 楽しみね、どんな魔法かしら?」
ほっ……よかった、冷静になれたみたいだ。あのままテンパってたら口を滑らしていたかもしれない。
ていうかアイリン、オイエン先生にも魔法が完成するまで教えたくないんだ。
「クラリーって、アイリンのフォローが上手いわよね」
「え、そうかな? それよりサキ、あのことは」
「今のあなたを見ればわかるわよ」
そっか。サキこそ、案外察しが良かったりするよね。なんて思いつつ。
ボイスボックスの説明を始めたアイリンに耳を傾ける。
「声に関する未分類魔法なんだけどね。見てもらった方が早いと思うから……いくよー、ボイスボックス改良版。ボイスフェザー!」
アイリンの手のひらに、一枚の真っ黒な羽根が現れる。
箱だったのを羽根に変えたみたいだけど、アイリンのことだ、それだけじゃないはず。
「これがボイスフェザーだよ」
その声と同時に羽根が消え、マナの波が周囲に広がる。そして一番近くにいたオイエン先生の目の前に黒い羽根が現れた。先生がそれを手のひらで受け止めると、
『これがボイスフェザーだよ』
黒い羽根からアイリンの声が聞こえた。
「これは……アイリンちゃん、なかなか面白い魔法を創ったわね」
先生の手元の黒い羽根が、再び消える。
そして今度はアイリンの目の前に現れて――
『アイリンちゃん、なかなか面白い魔法を創ったわね』
「まぁ……!」
今度はオイエン先生の声が流れた。
「アイリン!? 改良って、まさかこれ……!」
「うん! 返事ができるように改良したんだよ」
ボイスボックスは一方通行だったけど、新しくなったボイスフェザーはその返事ができる。
アイリンの手元に戻って消えた羽根がもう一度声を送ることはないみたい。一言だけやり取りのできる魔法なんだ。
これは……今度こそなにかの役に立ちそうな気がする。
「すごいじゃない、アイリンちゃん」
「本当……どんな発想よ」
「アイリン、いつの間にそんな改良したの?」
「えへへ……。あ、でもねクラリーちゃん。それだけじゃないんだ。改良の結果、羽根を複数出せるようになりました!」
アイリンはそう言って、腕を伸して手のひらを上に向ける。
ボイスボックスは一つしか出せなかったみたいだけど……。
「複数って、何枚くらい出せるの?」
「――え? んーと、わたしのマナの量だと50枚かな」
次の瞬間――ボワッ!!
アイリンの周りに、大量の黒い羽根が出現した。
「あわわわわ、ほんとに50枚出しちゃった!」
「ご、ごめん、余計なこと言った!」
魔法を使う瞬間に枚数とか聞くから、イメージがそれに引っ張られたみたいだ。
50枚の羽根はアイリンの声に反応し、消えていく。それは近くの人に……。
「あれ? 私のとこに……」
「あたしのとこにも来てるわよ?」
私とサキが羽根に触れると、
『あわわわわ、ほんとに50枚出しちゃった!』
『あわわわわ、ほんとに50枚出しちゃった!』
当然、さっきのアイリンの声が流れる。
「アイリン? もしかして複数出した場合、近くの人から順番に一人ずつ声が届くの?」
「う、うん……」
なるほど、一人に全部届いても意味がないもんね。出した羽根の枚数と同じだけの人数に届くんだ。
「とりあえず返事を吹き込みましょ」
「あ、そうだね」
私たちは羽根に向かって声を掛けると、消えて――また現れた。
『あ、そうだね』
『とりあえず返事を吹き込みましょ』
「え……?」
私の声は、サキの手元で。サキの声は、私の手元で流れた。
「あれ? アイリンに返らない?」
「どうなってるの?」
もう一度触れて声を吹き込むと、
『どうなってるの?』
『あれ? アイリンに返らない?』
さっきと同じ結果になる。これって……。
「ふたりとも、羽根に触れてはいけないわ」
「先生……って、アイリン!? どうしたの? アイリン!」
「はぁ、はぁ……ご、ごめ……クラリー、ちゃん……」
アイリンは苦しそうな顔で、オイエン先生に抱えられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます