クラフト6 オイエン先生の魔法の講義

33「合同講義」クランリーテ


 今日の風属性魔法の授業は、いつもの教室や演舞場ではなく、校舎一階にある大講義室で行われることになった。普段の三倍近い広さの教室で、私はアイリンと並んで席に着く。

 どうしてこの大講義室に移動になったのかというと、


「隣り、座るわよ」

「あ、サキ。いいよ」


 私たちの1組と、サキの2組。二つのクラスの合同講義となったからだ。


「なんか不思議な感じだね。サキと並んで授業を受けるなんて」

「そ……そうね。いつもと、違うものね」

「ん、サキ。もしかして緊張してる?」

「してないわよ! 緊張なんて、別に? するわけないでしょう?」

「あはは、隠さなくていいよ。わかってるから」

「わかっ……えぇ? うそ、あたしは、そのっ」

「この講義の先生が誰なのか、サキも知ってるんでしょ?」

「――っ!! そう! そうなのよ。ば、ばれてるなら仕方ないわね! そうよ、緊張して当たり前じゃない! ……はぁ」


 サキはよっぽど緊張しているのか、最後にがくっと項垂れて大きく溜息をついた。

 気持ちはわからないでもないけど……。


「さすがに気を張り過ぎじゃない?」

「う、うるさいわね。あたしよりアイリンのが緊張しているんじゃない? さっきから一言も喋らないけど」


 言われて反対の隣を見る。

 アイリンは黙ってじーーーっと机の上を見つめていた。心なしか顔色も悪い気がする。


「アイリン、朝はいつも通り元気だったんだけど……。急遽合同講義になるって聞いた途端こんな感じでさ。……ほらアイリン。アイリンってば」


 名前を呼びながら肩を揺さぶると、


「はっ! な、なに? クラリーちゃん。あれ? サキちゃんがいる。どうして?」

「合同講義だからよ……」

「あっ、そっか。そうだったね。うん、合同……講義……」


 アイリンは話してる途中で俯いていき、また机をじーっと見つめだしてしまう。


「重症ね……。もしかして属性魔法が苦手だから緊張しているの?」

「そうかも。これから講義をする先生が先生だから」

「風魔法のエキスパート。ターヤ王国一の研究者と言われている、オイエン・アスフィール先生だものね」


 サキがその名前を出すと、アイリンの肩がビクッと震える。


「物腰の柔らかい高齢の女性の先生だから。そんなに身構えなくてもいいのに」

「そうよね。……それにしても光栄だわ。あのアスフィール先生に講義をしていただけるなんて」

「滅多に講義をしないって噂だよね。私たち運がいいよ」

「ええ。あたし、アスフィール先生は憧れの魔法士なの」

「サキも? アスフィール先生って今は研究室に籠もりっぱなしみたいだけど、昔はあちこち魔法建築の現場を手伝って回ってたんだって。魔法のコントロールがすごく繊細でさ、私にとっても憧れの人だよ」

「わかってるじゃない。さすがクラリーね。アスフィール先生の作った呪文はとても素晴らしくて……。ちょっとアイリン? どうしたのよ?」


 私たちがアスフィール先生の話で盛り上がっている横で、アイリンは肩をビクビク震わせ続けている。

 明らかに様子がおかしい。これ、本当に緊張しているだけなの?

 どうもアスフィール先生の名前に反応しているように見えるけど……。


「……あ」

「なに? どうしたのよクラリー」

「えっと……アイリンの、名前って」


 言いかけると、アイリンは頭を抱えて机に突っ伏した。まさか、本当に?

 アイリンのフルネームは――。


「アイリン・アスフィールだよね……」

「そういえば……。え? ちょっと待ちなさい、え?」


 私とサキがアイリンに視線を向ける。

 ゆっくりと顔を上げたアイリンは気まずそうに笑うと、


「……うん。これから講義をするの、わたしのおばあちゃんなんだよ。えへへ……」

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