31「ターヤ王国城下町」アイリン


 ターヤ王国城下町。

 わたしたちの通う魔法学校のある、ターヤの中心部。

 街の中央には大きな広場と噴水があって、普段は子供たちがよく遊んでいる。休みになるとバザーやイベントが開かれたり、色んな用途で使われている。


 中央広場を北に進むとお城。東に進むとターヤ中央区高等魔法学校。この北と東に伸びる街道はお店が多くていつでも活気があった。


 南側は宿泊施設が多くて旅の人がたくさんいる。というのも南側の街の入口には国同士を結ぶ交通機関、バスの駅があるから。

 魔法動力車と呼ばれる大きな乗り物で、後方に取り付けられた大きな風車に魔法道具で強化した風魔法を当てて、その回転で車軸を回して前に進む。

 ……クラリーちゃんにこの話をしたら詳しいねって褒められちゃった。こういうの好きなんだよね。

 そのお返しじゃないけど、クラリーちゃんは魔法動力車で使う風魔法のことを教えてくれた。空気を破裂させて瞬間的に風を起こす、ウィンドバースト。だからウィンドバースト車って呼ばれていた時期もあったみたいなんだけど、どんどん略されていって……バスという名前になったみたい。クラリーちゃんこそ物知りだよね。


 街の西側は居住区。サキちゃんやチルちゃんはこっちの方に住んでいるって言ってたかな。クラリーちゃんは北側みたい。


 わたしはというと、この城下町ではなくて、東にしばらく進んで川を越えた向こうにある『ニィミちょう』という小さな町に住んでいる。すぐ近くに森があって自然に囲まれた、のどかで静かな場所……なんだけど、最近は城下町に近いからという理由で、居住者がどんどん増えている。昔はお店も少なかったのにだいぶ増えた。人が増えて便利になるのはいいことなんだけど、昔ののどかな感じも好きだったなぁ、なんてたまに思ってしまう。


 今日は学校がお休み。いつもならニィミ町で過ごすんだけど、城下町の方に住んでいるおばあちゃんにお届け物をしていた。その帰りに、この辺りを散策してみようと思ったの。


 学校に通じる東側の通りは、カフェとか食べ物のお店が多い。学生や研究者がよく通るからかな。今度、みんなで寄り道してみたいな……。誘ったらみんな来てくれるかな? あそこの、お店の前で火属性魔法を使って焼いてるリンゴタルト。美味しそうだなぁ。


「……あれ?」


 ふと、そのお隣の店に目が行く。

 看板に書かれているのは、


『ネリン薬店 各種お薬取り扱っています』


「ネリンって、たしか……」


 わたしはふらふらとお店に近付いて窓から中を覗いてみる。すると、


「あら? アイリンちゃん?」

「あぁー! やっぱり、ここナナシュちゃんのお店なんだ!」


 中で店番をしていたナナシュちゃんに見付かった。

 ナナシュ・ネリンフェーネ。薬屋さんだって言っていたし、お店の名前からもしかしてと思ったんだよね。

 わたしは扉を開けて中に入る。カランカラン、扉に付けられたベルが鳴った。


 エプロンを付けたナナシュちゃんが、カウンターの向こうで小さく頭を下げる。


「いらっしゃいませ、アイリンちゃん」

「ナナシュちゃん、おうちの手伝い? おやすみなのに偉いねぇ」

「いえ、これも勉強になるから……。アイリンちゃんはお薬を?」

「あ、ごめんね。たまたまお店を見かけて、ナナシュちゃんのおうちかなって」

「そうなんだ。気にしないで、よかったら見ていってください」

「うん、ありがと~」


 お店の大きさは、学校の教室の半分くらいかな。壁際にいろんな色のビンがいっぱい並んでる。真ん中のテーブルにはカゴに入った薬草。これに魔法を使って薬を作るんだよね、確か。その他にも塗り薬や湿布薬、ありとあらゆるお薬が並んでいて、わたしは感心してしまう。


「すご~い、薬ってこんなにいっぱい種類があるんだ」

「はい。覚えるの大変なんだよ? やりがいもあるけどね」

「おぉ、さすがだねナナシュちゃん! やっぱりすごい!」

「いえいえ、私よりもアイリンちゃんの方がすごいですよ」

「いやいやいや、ナナシュちゃんの方が!」

「いえいえいえいえ、アイリンちゃんのあの魔法の方が」

「いやいや――」

「いえいえ――」


 カランカラン。


「……なにやってるの? ふたりとも」


「あっ、クラリーちゃん!」


 そんなやり取りの中、扉を開けて中に入ってきたのはクラリーちゃんだった。

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