29「冒険科の授業」チルト
「大地よ、教え子たちのために力をお貸しください――ロック・ロックウォール」
校舎脇、水の塔と土の塔の間にあるグラウンドで、先生が巨大な岩を呼び出した。
高さは校舎の三階くらいある。
「はい。先生がこの岩を維持している間に、一番上まで登ってください。もちろん魔法は禁止ですよ」
周りから、えー、とか、高すぎだろー、とか声があがってる。
そうかな? これくらい魔法無くても余裕じゃない? もちろん魔剣もいらない。
「みなさんは冒険科の生徒です。これくらいできますよ。では順番に……」
「はいはーい! ボク登ります!」
「あっ、チルトさん待ちなさい――」
真っ先に手を上げてボクは駆け出す。先生の制止の声が聞こえた気がするけど、もう止まれなかった。
目の前の巨大な岩を見上げて――ざっとルートを決める。思ったよりデコボコしていて登りやすそう。きっと先生がそういう風に作ったんだ。みんな物怖じする必要ないのになー。
「よっと……はっ! えいっ!」
ジャンプして出っ張ったところを左右の手で掴み、片足を引っかける。今度はそこを軸にして、さらに上にジャンプ。掴み、反対の足を岩に乗せ、足場が崩れないのを確認してさらにジャンプする。その繰り返し。
うん、最初に決めたルートで大丈夫かな。ボクはぴょんぴょんとジャンプを繰り返し、難なく頂上に辿り着いた。
ボクは岩の上に立って、みんなにVサインを送る。
「到着! よゆーだったよ、みんな!」
「す、すげー……」
「きゃーーー! チルトちゃんカッコ良すぎ!」
「なぁ、オレらも行けるんじゃないか?」
「私もチルトちゃんみたくがんばる!」
お? みんな褒めてくれる。嬉しいな。やる気も出たみたいだし、よかったよかった。
「さすがですね、チルトさん……。みなさん、彼女のようにとは言いません。ゆっくりでいいので挑戦してください」
先生がそう言うと、みんな岩登りに挑戦を始める。ボクはもう降りてもよかったけど、しばらくここでみんなを待とうかな。
「チルトってすげーよなぁ。魔法は全然だけどさ」
「あれで属性魔法まで優秀だったら完璧すぎるよ」
「だったらなんでターヤの冒険科にいるんだろうな」
下の方からそんな声が聞こえてきた。ボクは校舎に背を向け、遠くの山の方に目を向ける。
なんでこの学校にいるのか、かぁ……。
ターヤ王国は四大属性魔法が一番! という国。
このターヤ中央区高等魔法学校は、属性魔法科は10クラスもあるのに、冒険科は1クラスしかない。隣の医療薬学科は2クラスあるのにね。
本格的な冒険科の授業を受けたければ、北のアカサ王国か西のラワ王国に留学した方がいいって話はよく聞く。
特にアカサ王国は未開の大陸への船が出ているから優秀な探検家が集う。ここと違って冒険科と魔法科が同じくらいあるらしい。
実はこの学校に入る前に、留学しないかって先生に言われたんだよね。
でも、行かなかった。
遺跡探索って、探検家だけで行くわけじゃない。だいたい魔法専任の魔法士と呼ばれる人を一人は連れて行く。
ボクが誰か魔法士を連れて行くとしたら、それはやっぱりサキがいい。サキと一緒に遺跡探索に行きたい。だから同じ学校で一緒に学んで、そうしてボクは探検家になりたいんだ。
それが、留学を蹴ってこの学校を選んだ理由。単純でしょ?
先生はなんかゴチャゴチャ言ってた気がするけど、ボクが考えを変える気がないのがわかって諦めてくれた。
大丈夫だよ、ボクはこの学校でだって、世界一の探検家になってみせるから。
あ、でも。
遺跡探索に連れて行く魔法士、クラちゃんもいたら百人力だ。サキと二人で完璧!
それから医療係にナナちゃん。あの子の薬があればもしもの時も安心!
そしてやっぱり、アイちゃんだよね。アイちゃんの遠くの人と話す魔法があれば……遺跡探索がすっごく楽になるはず!
おぉ、未分類魔法クラフト部の五人なら、どんな遺跡だって探索できる!
「あははっ! 魔法、早く完成させてよね、アイちゃん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます