クラフト5 それぞれの日常

28「がんばり屋さん」サキ


 魔法道具。使う魔法を増幅したり、発動させる向きを補佐したりするのが目的の道具。また、この魔法はこの道具と決めておくことですぐにイメージできるようにする、という呪文と同じ使い方もある。

 魔法のイメージを強く残すために、デザインも重要になる。一番多いのはアクセサリーとして身に付けられる物。あとはステッキタイプも多い。珍しいのになると、本の表紙に埋め込んだものがある。

 とはいえ、好き勝手デザインできるわけでもないのが魔法道具作成の難しいところ。

 魔法道具には核となる宝石が必要。マナを取り込む際に宝石を通すことで、マナを増幅、魔法の効果を高める。もしくは、発動した魔法を宝石に通し、魔法の範囲を大きくする。二通りがあるけれど、そのどちらにも注入口と排出口が必要になってくる。それを装飾部分で塞いでしまうと魔法が上手く発動できなくなってしまう。


 今、あたしはクラスメイトに頼まれてイヤリングタイプの魔法道具を補修している。宝石は魔法道具でよく使われているアンプ石ね。そこらの山でゴロゴロしている割りに、増幅効果が高くて30%~50%アップが見込まれている。とても安価で優秀な石だけど、その分壊れやすい。魔法道具で使う場合は定期的な交換が必要だけど、それでも十分なコストパフォーマンスが得られる。


 今回の場合、アンプ石に異常は無い。最近買ったと言っていたし……問題があるとすれば装飾部分ね。

 菱形にカットされたアンプ石を金属で枠組みしてイヤリングにしてある。でもよく見ると、菱形の尖端、上下に僅かな隙間がある。これが注入口と排出口。

 さらによく見ると……付け根側の尖端、注入口の部分の装飾がへこんで曲がってる。落としたのかしら。原因は、これね。

 イヤリングタイプということは取り込むマナを増やすタイプのはずだけど、このへこみがマナの注入を邪魔しちゃってる。これだと10%くらいの増幅しかできないわね。

 私は指先で火属性魔法を使う。火を出すのではなく、空気を僅かに熱するだけ。へこんだ装飾部分をそれで熱して、針を使ってぐぐっと注入口を広げる。ついでに形も整えてあげる。


「……できたわ。あ、まだ少し熱いかもしれないから、気を付けてね」

「わぁ、ありがとうサキさん! 助かるよ~」

「大した故障じゃなかったからできたのよ。アンプ石が壊れてたら、交換しかなかったわ」

「それでもすごいよ! 装飾部分の補修なんてまだ授業で教わってないし」

「まぁ……そうね」


 そういえば魔法を使っての金属加工はまだ教わっていなかった。やってることは難しくないんだけど。

 クラスメイトの彼女は何度も頭を下げてお礼を言って、ようやく席を離れていく。

 ……ま、悪い気はしないわね。こういうのも。


「さっすがサキだねー。鮮やかなお手並みだったよ」

「チル!? ……いつから見てたのよ」


 突然後ろから声をかけられてビクッとしてしまう。振り返るとチルがにやにやしていた。この子、時々気配を消して背後に近寄るのよね……。


「サキは間違いなく、魔法道具作成の学年トップだよ」

「と、当然じゃない。いつからやってるか――チルなら知ってるでしょ?」


 小さい頃、魔法道具屋で開かれた制作体験イベントで褒められたのがきっかけで、あたしはこの世界に興味を持った。魔法道具を作るのが楽しくてしょうがなく、毎日作り続けていた。幸い宝石はチルがいっぱい拾ってきてくれる。素材には困らなかった。

 気が付くと、あたしの魔法道具作成技術はちょっとしたものになっていた。


「こっちはクラちゃん越えてるんだしさぁ、属性魔法の学年トップにこだわる必要ないんじゃない?」

「別に、クラリーを特別意識してトップを狙ってるわけじゃないわよ」

「そうなの? 特別意識してると思ってたよ」

「ち、違うって言ってるでしょ! ……あたしにはね、才能がないの。だから努力でトップを取りたいと思ってるだけよ」

「ん~、クラちゃんだって努力はしてるみたいだよ?」

「わかってる。だから余計に頑張るんじゃない。努力で負けたなんて、嫌でしょう?」


 それに……クラリーは確かに努力をしているみたいだけど、それでも才能があるのは間違いない。だって、彼女の才能に、あたしはこんなにも……。


 クラリーが努力をしているのなら、あたしはその倍以上頑張って。

 いつか、あの素晴らしい魔法の才能に。近付きたい。

 あたしには才能なんてないけど、頑張れば越えることができるんだって証明したい。


「そっかぁ。サキは本当に、がんばり屋だね。ボクは応援してるよ」

「ん……ありがと、チル」

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