27「目標は」クランリーテ


「はうぅぅ、私、聞いてはいけないことを聞いてしまいました?」

「うぅ、そんなことないというかあるというか……。その…………うわーん! どうしようクラリーちゃん!」


 崩れ落ちたアイリンが、涙目でしがみついてくる。まったく、本当に警戒心が足りないなぁ。

 もっとも、相手がナナシュだったからポロッと漏らしてしまったのかもしれない。

 この子は本当にいい子だから。私も、マナ欠乏症のことで悩んでいるのをつい話してしまった経緯がある。あの時ナナシュは親身になって聞いてくれて……それから友だちとして、話をするようになったのだ。

 私はアイリンの手に手を重ねる。どうしようと聞かれても、こう答えるしかない。


「……アイリンさえ良ければ、ナナシュにも教えてあげてよ」

「それがいいわね。ここまで来て、なにも説明しないわけにもいかないでしょ」

「なんなら勧誘しちゃえばー?」


 サキとチルトも同調してくれる。するとアイリンに笑顔が戻り、バッと勢いよく立ち上がった。


「……わかった! ナナシュちゃん! ちょっといい?」

「は、はい? なんでしょう?」


 そんなわけで、ナナシュにもアイリンの魔法を教えることになった。

 かくかくしかじか。アイリンの説明に、私とサキが補足をしながら話していくと――



「――え? な、なんでそんなとんでもない研究を一学生がしているの? え? えぇ?」

「驚くのも無理はないんだけど……ナナシュ。このこと、他の人には内緒でお願い」

「これは、とんでもないですよ、クラリー。……でもわかりました。クラリーの恩人の頼みです。聞かないわけにはいかないよね」

「そ、それは……まぁ、それでもいっか」

「それでもいっかって、いいの!? クラリーちゃん? わたしが恩人って!」


 アイリンはピンと来ない! とんでもない! という顔をしている。

 でもナナシュの言う通り。恩人と言えば恩人だ。

 あのとんでもない魔法を見て、私の常識はひっくり返った。マナ欠乏症を治す方法があるかもしれないって、思えたんだから。


 アイリンが慌てふためくのを見て、ナナシュが微笑む。


「ふふっ、楽しいですね、ここは。クラリーの考えが変わったのも、わかる気がするよ」

「じゃあナナちゃんも入部しちゃおうよ、未分類魔法クラフト部!」

「私が……ですか? いいの、かな?」

「もちろん! 大歓迎だよナナシュちゃん!」


 みんなの視線がナナシュに集まる。彼女はちょっと驚いた顔で、恥ずかしそうにしている。


「はうっ……で、では。クラリーがここでマナ欠乏症を治す方法を探すなら、私は治療薬を作りたい、です。確かに未分類魔法は盲点でした。手がかりがあるかもしれないよね……。あ、もちろんアイリンさんの研究のお手伝いもしますね」

「うん! ナナシュちゃん、治療薬作りがメインでぜんぜん構わないからね! むしろわたしたちが手伝えることがあったら言ってね!」


 アイリンがそう言うと、ナナシュがぺこりと頭を下げる。


「……ありがとう。これから、よろしくお願いします。みなさん」


 ナナシュが嬉しそうに笑うのを見て。

 私も、笑みがこぼれた。



                 *



「ねぇクラリーちゃん。ひとつ聞いていい?」

「なに? マナ欠乏症のこと?」

「ううん。さっき、治療法を探すのが目標の一つだって言ってたけど、他にもあるの? なにかあるなら、わたしも手伝いたい!」

「あぁ、もう一つあるけど……。それは手伝う必要ないよ」

「えぇー? そんなこと言わないでよー」

「ていうか、何度も言ってるんだけど」

「えぇっ!? ちょ、ちょっと待って、うそ、えっと、えーっと……?」

「アイリンは自分の魔法を完成させてよ。そしたら、私の目標も達成するから」

「そうなの?」

「そうだよ」


 まったく。前にも言ったんだけどな。

 わたしのもう一つの目標は……アイリンの魔法が完成するのを隣で見ること、だよ。




未分類魔法クラフト部

クラフト4「未分類魔法の可能性に」

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