25「そこにある可能性」アイリン


「……え? マナ欠乏症の、治療薬なんでしょう?」


 驚いて聞き返すサキちゃんに、クラリーちゃんは首を横に振る。


「マナ欠乏症は原因も治療法もわかってないんだ。薬はあくまで発作を抑えるだけで」

「……さっき私が作った薬は、もとになる薬にマナを込めているだけなんです。マナを強制的に取り込むことで呼び水になって、呼吸でマナが入るようになるんです」

「あ! あれってマナを込めてたんだ?」

「はい。なので治療薬とは、とても言えません……」


 ナナシュちゃんが俯いてしまう。

 そんなナナシュちゃんの肩に、クラリーちゃんがぽんと手を置く。


「ナナシュは家の薬屋を継ぐためにこの学校に通ってるんだけど……」

「……マナ欠乏症の治療薬を作るためでもあります」

「無理しないでって言ってるんだけどね」

「これはクラリーのためだけじゃないよ。マナ欠乏症は珍しい病気だけど、他にも苦しんでいる人がいる。いつかきっと、この世界からマナ欠乏症が無くなるように……そのために、私は勉強しているんだから」

「うぅ、ナナシュちゃん偉い! というかすごいよ……。本当に、年下だなんて思ってごめんね」

「はう……それはもういいですよ」

「でもでも、わたしなんかよりずっーとしっかりしてるのは本当だよぅ」


「すでに将来を見据えて勉強をしている……。確かに、偉いわね」

「はいはいボクもだよ! 遺跡探索をするために冒険科に通ってるよ!」

「チルちゃんは探検家志望だもんね。みんなすごいなぁ……」


 わたしが感心していると、クラリーちゃんがぽつりと呟く。


「……そうだね。私は、将来どうなるか……」

「クラリー……」

「クラリーちゃん……?」


 みんなの視線がクラリーちゃんに集まる。ナナシュちゃんだけは、そっと目を逸らした。


「……私は将来、魔法を扱う職には就けないから。突然発作が起きたら大変でしょ?」

「そんな……」

「ま、待ちなさいよクラリー。研究職だってあるでしょう? なにも、いまからそんな」

「サキ……そうだね。研究職なら……なんとか。でも私、どっちかというと実地で魔法を使う方が性に合ってるっていうか、好きでさ。だから、どうしたらいいかなって」

「でも……っ」


 サキちゃんはなにかを言おうとして、でもなにも言えず俯いてしまう。


「……ボク、その気持ちわかるかも。遺跡探索に関わることができればいいってわけじゃないもん。自分で探検したいよ」


 チルちゃんもそう言って、机に突っ伏してしまった。


「クラリーちゃん……」


 四属性魔法が得意なクラリーちゃん。クラスでも、将来安泰だなんて噂されている。

 わたしもクラスのみんなと同じことを思っちゃってた。

 でも、そんなことはなくて。クラリーちゃんは病気のことで苦しんで、将来のことで悩んでいた。

 知らなかったとはいえ、わたしは……うぅ。


「アイリン……。みんなも、そんな暗い顔しないでよ。もう、大丈夫だから」

「クラリーちゃん! わたし、そのっ」

「アイリンのおかげだよ」

「……えっ?」

「私は、ここに。未分類魔法に、可能性を見たんだ」

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