24「マナ欠乏症」アイリン


「「「マナ欠乏症?」」」


 チルちゃんがクラリーちゃんに肩を貸して、わたしたちは未分類魔法クラフト部の部室に移動した。助けてくれたナナシュちゃんももちろん一緒。

 でもこの部室に五人はちょっとだけ狭いかも。


 みんな椅子に座って落ち着くと、クラリーちゃんとナナシュちゃんが病気について説明をしてくれることになった。でも……聞いたことの無い病名に、わたしたち三人の声が重なる。


「マナ吸収障害とも言うんだけど……やっぱり、みんな聞いたことないよね」

「珍しい病気だもん。仕方ないです、クラリー」

「うぅ、知らなくてごめんねクラリーちゃん」

「い、いや、アイリン。謝らないでよ。ナナシュの言う通り、珍しいから」


 クラリーちゃんはそう言ってくれるけど……。

 マナ欠乏症……かぁ。マナが足りなくなる病気?


「では病気について、私が説明しますね」


 まだ具合の悪そうなクラリーちゃんを見て、ナナシュちゃんがぴょこんっと椅子から降りる。背が低いからあまり高さが変わってなくて……なんか、可愛らしいなぁ、なんて思ってしまう。


「この世界にはマナが満ち溢れています。みなさん、呼吸をする時にマナを少しだけ取り込んでいるのはご存じですか?」

「うん、それは知ってるよ!」

「常識ね」

「へぇー、そうなんだー……って痛いっ! サキ、叩かないでよー、冗談だってば!」


 チルちゃんがサキちゃんにチョップをくらっている。笑ってるし、本当に冗談なんだと思う。

 ナナシュちゃんはちょっと笑いながら、


「あはは……。魔法を使う以外でも、人はマナを取り込んでいます。呼吸で取り込んだマナは体内を巡り、身体を動かすエネルギーになっているんですよ」

「えっ、そうだったの?」

「うっそ! じゃあ本当はごはん食べなくてもいいの?」

「そんなわけないじゃない。……今度は素で言ってるみたいね、アイリンもチルも」


 わたしはチルちゃんと揃って頭をかく。サキちゃんの指摘通り、本当に知らなかった。


「はう、授業で習っているはずなんですけど……。それで、クラリーの病気ですが――」

「マナ欠乏症、マナ吸収障害とも言うのよね? もしかして、呼吸でマナが取り込めなくなるの?」

「はい。その通りです」


 えっと、マナは息を吸うと身体の中に入ってくる。

 身体に入ったマナは身体を動かすエネルギーになる。

 クラリーちゃんの病気は、マナが入ってこなくなる病気? ということは……。


「えぇ!? 身体が動かなくなっちゃうってこと? ……あっ」


 ナナシュちゃんの説明を聞いて、さっきのクラリーちゃんの様子を思い出す。

 苦しそうに胸を押え、蹲って動けなくなる。まともに喋れなくなる。

 そっか、あれはそういうことだったんだ。


「きちんと説明すると、病気の名前が『マナ吸収障害』で、身体を動かせなくなる症状が『マナ欠乏症』です。医療界隈では欠乏症の方で呼ばれることが多いです。この病気の怖いところは、発作がいつ来るかわからないことで……」


 ちらっとクラリーちゃんに目を向けるナナシュちゃん。クラリーちゃんはテーブルの上で手を組んで説明を引き継ぐ。


「突然、来るんだよ。首が締まる感覚がしたと思ったら、すぐに身体が重くなって、動けなくなる。息もほとんどできなくて……。そうだ、改めて。アイリン、ナナシュ、二人とも助けてくれてありがとう」

「ううん! わたし、なにもできなかったよ……」

「……いいえ、アイリンさんが呼んでくれたからこそです。緊急事態では大事なことなんだよ、あんな風に大声で助けを呼ぶの」

「ナナシュちゃん、ありがとう~。大声というか魔法だけどね」

「魔法……? あの声が?」

「うん! ボイスボックスって言ってね」

「アイリン待って。……ナナシュ。それについては後で説明してあげるよ」

「う、うん。クラリーがそう言うなら」


 そっか、今ボイスボックスの説明を始めちゃうとややこしくなるよね。

 さすがクラリーちゃん。


「その話、私にも聞かせなさいよね。……でもその子の言う通り。意外と、いざという時って大声を出せないものよね」

「冒険科の授業でも真っ先に教わったよー。助けを呼べるようになっておきなさいってね」


 助けを呼ぶことが大事、かぁ。確かに咄嗟に大声って出せないものかも。

 わたしは自分の作業台に目を向ける。離れた人と話ができる魔法が完成すれば、もっと簡単に、確実に助けが呼べるかな……?


「……それよりクラリーです。本当に気を付けてください! 薬は常に持っておかないと!」

「ごめん。最近発作が無かったから、油断したよ」

「倒れているのを見て、本当にビックリしたんだよ? ……もう……」

「ナナシュ……。ごめん。これから、もっと気を付けるよ」


「ねーねー、クラちゃん。ナナちゃんだっけ? 二人はどうして知り合いなのー? 病気のことも知ってたみたいだし。ボクたちにも紹介して欲しいな」

「そういえば、まだちゃんと紹介してなかったっけ」

「はうっ……」


 ナナシュちゃんは少しテーブルから離れて、わたしたちにぺこりと頭を下げる。


「では今度こそ改めて。私はナナシュ・ネリンフェーネです。家が薬屋をやっていまして、店番を手伝ったりしています」

「私がよく行く薬屋なんだ。何度も通う内に話すようになったってわけ」

「へぇ~! 小さいのに偉いね、ナナシュちゃん!」

「小さいのにって……アイリン、まさかとは思うけど勘違いしてないよね?」

「え? 勘違いって? え?」

「はうぅぅ……私も、ここの一年生です……」

「…………あぁっ、そっか! 同い年だ!」


 てっきり年下だと思ったけど、わたしはここに入学したばかりの一年生。年下がいるはずがなかった。同じ制服を着ているのに……わたしってば……。


「もうもうもうわたしのバカー! ほんとにごめんねナナシュちゃん!!」

「いえ、よく間違われますから……小学生って。もう高校生になったのに、いまだに……はうぅぅぅ」

「あーあ、小学生ってアイちゃんひっどいなー。ボクはちゃーんとわかってたよ!」

「あわわわわっ! わたしだって小学生とは思ってないよー!」

「ほ、本当に気にしないでください。それに、チルトさんは確か……」

「ふふふ。ボクは隣のクラスで見かけたことあるからねー」


 チルちゃんがぼそっとなにか言っていたけど、よく聞こえなかった。それよりも……。

 ううう、酷い勘違いをしちゃった。あとでちゃんとお詫びをしよう!


「まったくもう……。つまりクラリーは、この子の家の薬でマナ欠乏症の治療をしているってことね?」


 サキちゃんが上手くまとめてくれた。するとクラリーちゃんは、


「……ううん、違うよ。薬は、発作を抑えるためだけのものだよ」

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