23「応急処置」アイリン


「そこに倒れているの、クラリー?」


 校舎から駆けつけてくれたのは、わたしたちと同じ制服を着た金色の髪の小さな女の子。セミロングで、先の方をちょこっとだけリボンで結んでいる。


「クラリーちゃんのこと知ってるの?」

「は、はい! やっぱりクラリー……。とにかく横にしてあげましょう」

「あ、そうだよね。うん!」


 女の子はわたしの隣に座り込み、一緒にクラリーちゃんを横に寝かせる。


「ナ……ナ……」

「クラリー、薬はどうしたの?」

「う、わ……ぎ」

「上着? あ、そうだ! 暑かったら部室に置いて来ちゃったんだよ! わたし取ってくる!」

「待ってください。作ってしまった方が早いです」


 駆け出そうとするわたしを女の子が止める。……作る?


「私は医療薬学科なのです。クラリーの病気のことも知っています」

「そうなんだ!?」

「はい。発作を抑える薬は簡単に作れます」


 女の子は話しながらも、てきぱきと薬を作る準備をしている。

 左の手のひらに薄い紙片を乗せ、肩にかけた鞄から右手で硝子の筒を取り出し、中に入っている飴みたいな、指の爪くらい小さな水色の粒を二つ、器用に片手で紙片に転がす。

 筒を鞄に戻し、開いた右手を左手の上にかざすと、ぼんやりと粒が光り出した。


「ふおぉぉ……薬ってこうやって作るんだ。初めて見たよ」

「いえ、これはこの薬だけなの……。さあクラリー、飲んで」


 わたしはクラリーちゃんの背中を持ち上げて、上体を起こす。

 女の子の薬をクラリーちゃんは飲もうとするけど……。


「……あ……」

「クラリーちゃん!?」


 なにかを言おうとして、かくんと項垂れる。身体が急に重くなって、わたしは慌てて支え直す。

 そしてそれを見た女の子は目を見開き、粒を紙片で包み込むと、クラリーちゃんの顎を上げて口を無理矢理開き、薬を放り込んだ。


「だ、だいじょうぶかなぁ? クラリーちゃぁん!!」

「大丈夫なはずです。気絶したように見えたけど、まだ意識がありました。口を開けようとしたら自力で開きましたから。……もう一度クラリーを寝かせてあげましょう」

「うん! そーっと……」


 わたしはゆっくり、体を横たわらせる。

 支えてみてわかったけど、クラリーちゃんの肩って細いなぁ……。


「っ……カハッ! げほごほ! ……はぁ、はぁ、はぁ!」

「わわっ、クラリーちゃんだいじょぶ!?」

「クラリー! ゆっくり、ゆっくりです。深く息をして」


 寝かせた途端に咳き込み、自力で身体を起こして荒い息をするクラリーちゃん。

 女の子の指示で深呼吸をすると、だんだん呼吸が落ち着いてきた。

 最後に大きく溜息のように息を吐いて、クラリーちゃんはわたしを見る。


「ご、ごめん……アイリン」

「ううん! もう薬が効いてきたんだね。よかったぁ」


 もう普通に喋れるみたいだけど、まだ顔色は悪い。でもさっきよりは全然よくなった。この子が作った薬がよく効いているみたいだ。

 クラリーちゃんは今度は女の子の方を向いて、身体を起こそうとする。


「ナナシュも……ありがとう」

「無理しちゃだめだよ。少し、横になって。長時間の発作は久しぶり……ですよね?」

「そう、だけど」

「クラリーちゃん、この子の言う通りだよ。えっと……」

「私はナナシュ・ネリンフェーネです。クラリーはうちのお店によく……」


 女の子、ナナシュちゃんが自己紹介を始めたところで、


「アイリン? そこでなにしてるのよ。部室に荷物だけ……え? ちょっと、クラリー!?」

「おー? クラちゃん倒れてる? どしたの?」


 風の塔の方からサキちゃんとチルちゃんが駆け寄ってくる。部室に誰もいなかったから探しに来てくれたみたいだ。

 二人の姿を見て、クラリーちゃんがわたしの肩にぽんと手を置いた。


「私はもう、大丈夫だから……とりあえず部室に行こうよ。ナナシュも、一緒に」

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