21「属性魔法を見せて」クランリーテ
属性魔法を使うのにあの部室では狭い。アイリンの作業台を壊してしまってはマズイし。
というわけで、風の塔と本校舎の間の中庭に出て私とアイリンは向かい合っていた。
「属性魔法でも、割とイメージし易い火属性にしよう。私が魔法を使うのをよく見てて」
「はい! お願いします、クラリー先生!」
先生って……まぁいいか。
火属性魔法。できるだけシンプルな方がいいかな。あまり凝ったのだとアイリンがイメージできなくなる。
シンプルで……簡単にイメージできて……。
「よし。いくよ」
私は右腕を前に伸ばし、手のひらを上に向ける。
瞬間、ボッ! と勢いよく炎が吹き出した。
炎は校舎の二階くらいの高さまで伸びると、すぐに消えた。
「ふおおおお! すっごい! クラリーちゃんすごい! ううん、クラリー先生!」
「あはは……。なるべくイメージし易くしてみたんだけど、どうだろう」
シンプルなだけじゃなくて、分かりやすく派手に。アイリンにイメージを植え付けるにはインパクトも大事だと思ったのだ。
「わたしもやってみる! えーっと、腕を伸ばして、こう……あれ? 呪文はどうしたらいいの?」
「無くていいよ。難しく考えないで。思ったまま、そのままを。火が噴き出すイメージを頭に浮かべて」
「う、うん。火が吹き出す……クラリーちゃんみたいに……」
無理に呪文を詠唱させて、さっきのインパクトが薄れてしまっては意味がない。詠唱無しで見たままをイメージすれば、アイリンならきっと上手くいく……はず?
「あ、アイリン!? 手のひらから煙が出てきたんだけど」
見ると、プスプスと音を立てて白い煙があがっていた。
そういえば前に火属性の補習で手のひらから煙が出たと言ってたっけ。
どうしてそんなことに……いや、あれは。
「あ、あれ? おっかしいなぁ」
「あれ? じゃないよ。今、手のひらでなにかが回転してるのが見えたよ?」
なにかはわからなかったけど、手のひらで物体が高速回転をしているのが見えた。
「うっ……。えーっとね、クラリーちゃん。魔法を使わずに火を起こす方法、知ってる?」
「……一応。木を擦ったりするんだっけ」
「間違ってないけど……。と、とにかくね、わたしの中で火ってそうやって起こすものっていうのがあって~……」
「はぁ……。魔法はそうじゃないってば。なにもないところから火が現れる。それが魔法だよ」
「うぅ。うん、わかってる、わかってるんだけどね。どーしてもね」
これは根気がいりそうだ。というか、この魔法で溢れている世界でどうしてそういう知識が先に立つんだろう。本当に不思議な子だな……アイリン。
「あのね、わたしなりに理由はわかってるつもりなんだよ」
「……そうなの?」
「お母さんがね、魔法苦手で。なるべく魔法を使わない生活を心がけているの」
「へぇ……。そういえば、そういう人もいるって聞いたことがあるよ」
このターヤ王国ではあまりいないと思うけど。アイリンのところはその数少ない家の一つなんだ。ということはつまり……。
「そっか、じゃあ小さい頃あんまり魔法を目にしてこなかったんだ?」
「うん。実はそうなんだ。おばあちゃんはすっごく属性魔法が得意で、時々教えてくれてたんだけど……やっぱり上手く使えなくて。未分類魔法のことばっかり考えるようになっちゃったんだ」
なるほど、アイリンの家庭環境が未分類魔法の才能を育てたんだ。
だとしたら……。
「わかったよ。じゃあ、私が色んな魔法を見せてあげる」
「クラリーちゃんが?」
「うん。私の魔法をアイリンが見慣れることができたら、少しはイメージし易くなるんじゃないかな」
「魔法を見慣れる……うん! それいいかも! わたし、いっぱいクラリーちゃんの魔法を見る!」
……あ、ちょっととんでもない約束をしてしまったかな?
でも、いっか。私の練習にもなるし。
「それじゃ、最後にもう一度だけやってみよう。アイリン」
「うっ、さすがにまだ見慣れてないよ?」
「今度は一瞬じゃなくて、魔法を使い続けてみるから。それを見ながらやったらどうなるかなって」
「あ、そうだね。それも試してみよう!」
「じゃあさっきと同じで、炎を――」
腕を伸ばし、魔法をイメージしようとした瞬間。
「――――っ!!」
体に異変を感じ、胸元を掴む。来る、と思った時にはすでに喉が締まる感覚が始まっていた。そしてすぐに、呼吸が――できなく、なる――。
私は反射的にポケットに手を入れようとして、でも、
(あ……上着、部室に――)
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