クラフト4 未分類魔法の可能性に

20「未分類魔法を見せて」クランリーテ


 未分類魔法クラフト部。

 放課後になると、毎日この部室に足を運ぶようになった。

 今日はまだサキとチルトは来ておらず、私とアイリンの二人だけ。

 季節はつきの終わり。このターヤ王国の夏は早く、すでにだいぶ暑い。私たちは制服の赤いブレザーを脱いで話をしていた。


「ねぇアイリン。今さらだけど、未分類魔法って他にどんなのがあるの?」


 これまで、例の離れた場所にいる人と話をする魔法と、十字の板で風を起こす魔法しか見たことがなかった。

 分類されていない魔法。よく考えれば他にももっとあるはずなのに。

 本当に、今さらだけど。


「そういえば見せてなかったね~。クラリーちゃんが入部してから、色々あったから忘れてたよ」

「……確かに」


 私がアイリンの宝石を拾ったのがきっかけで、研究の協力をすることになって。

 サキに魔法が見付かってしまい、入部することになり。

 そのサキの紹介でチルトが入部した。

 今までひとりだったアイリンには、怒濤の展開だっただろう。


「他の未分類魔法か~。そうだなぁ、すぐに見せられるのは……これとか?」


 アイリンは椅子に座ったまま、ぐぐっとテーブルに手を伸ばして手のひらを広げる。

 すると、真っ黒な四角い箱が現れた。


「これは……?」

「えっとね、これに触れて話しかけるとー……クラリーちゃ~ん」

「うん?」


 アイリンがぴとっと人差し指で箱に触れて、私の名前を呼ぶ。するとなにかが――マナが――私の身体を通り抜けて……


『クラリーちゃ~ん』


「えっ?!」


 少し遅れて、私の耳元でアイリンの声が聞こえた。


「な、なにこれ? これがその魔法なの?」


 見ると、もう黒い箱は消えてしまっている。魔法が発動したから消えたってこと?


「うん! ボイスボックスって呼んでるんだ。吹き込んだ声が、一番近くにいる人の耳元に届くの!」

「一番近くに……。そっか、マナが波みたいに抜けていったんだけど、それで近くの人を探してた?」

「そう! さっすがクラリーちゃん! この魔法、離れた場所にいる人と会話する魔法を創ってる時にできたんだ」

「あぁ~……そっか、なるほど。副産物ってこと?」

「うん。でもね~、使い道が思いつかなくて」

「そうなの? うーん、使い道、か……」


 あれ、確かに思い付かないや。なにか用途がありそうな気もするんだけど、パッと出てこない。


「面白いんだけどね~。あ、触れてる人は対象にならないから、いまクラリーちゃんと手を繋いでボイスボックスを使うと、近くの部屋の誰かに声が届くよ! やってみる?」

「い、いいよ。ていうかダメでしょそれ」


 まったく、そんなことしたら大騒ぎだ。怪現象として変な噂になってしまうかも。


(それよりアイリン……今、自分がやったことわかってるのかな)


 ボイスボックスの特殊性はもちろんだけど、それよりも。アイリンは詠唱無しで魔法を発動させていた。前にここで見せてもらった十字の板で風を起こす魔法もそうだった。

 未分類魔法だって普通の魔法と同じで、自分の中に魔法の鋳型を作っているはず。

 つまり、彼女は一瞬でそれをイメージしてみせたということだ。


 ……やっぱり、アイリンには魔法の才能があると思う。

 きっとなにかスイッチが入れば、属性魔法も使えるようになるんじゃないかな。


「そうだアイリン。サキとチルトもまだ来ないし、前から言ってた属性魔法のこと、教えようか?」

「ほんと? うん! お願いクラリーちゃん!」


 嬉しそうに飛び上がるアイリン。

 属性魔法を教えてあげるという約束、忘れかけていたから。

 ちょうどいいタイミングだったかも。


 私も立ち上がって、部室のドアを指さす。


「ここじゃ狭いから外でやろうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る