18「スマート鉱石」クランリーテ


「チル。スマート鉱石、調達できない?」

「えっ……スマート鉱石って、サキちゃん?!」


 サキの問いかけに真っ先に反応したのは、アイリンだった。

 それを見てサキはニヤリと笑みを浮かべる。

 なにか特別な石のようだけど……鉱石の話になると、私はついていけない。

 チルトは顎に人差し指を当てながら、


「ん~……あっ、春休みに取ってきたのが鞄に入ってるよ」

「ほ、ほんとう?」

「なになに? アイちゃんスマート鉱石欲しいの? ちょーっと待ってねー……」


 がさごそと自分の鞄を漁るチルト。

 テーブルの上にゴトゴトっといくつかの石が置かれていく。


「あった。これこれ。スマート鉱石~!!」


 チルトが鞄から取り出して掲げたのは、手のひらくらいの大きさの細長い石。

 まるで切り取ったかのように天辺と底が平らになっている、円柱状の石だ。


「おおぉぉぉ……これがスマート鉱石! 本物!」

「アイリン、そんなにすごい物なの?」

「うん! 見てクラリーちゃん、綺麗な円柱になってるでしょ? これって自然にこうなるんだよ」

「へぇ……」


 この形が自然と作られたのなら、確かに変わった石だなと思う。


「でね、この石ができるところってかなり限られてて、取るのも難しいって言われてるんだ。チルちゃんよく取れたね……あっ、そっか! 魔剣!」

「……魔剣?」


 一人納得しているアイリン。私はわけがわからず首を傾げる。


「アイちゃん詳しいねー! クラちゃん、このスマート鉱石はね、洞窟の天井にできるんだ。それも大陸一の地下大空洞、ナハマ空洞のね!」

「ナハマ空洞って、あの……街が一つ入るくらい大きいっていう? あれの天井ってすごく高いんじゃ……あ、だからチルトの魔剣なのか」


 ナハマ空洞の高さは学校の校舎くらいあると聞く。その天井から取るとなると至難の業。でもチルトの魔剣で浮かんでいけば……。


「ゆっくりだから、天井まで行くの時間かかるけどねー。上についちゃえば取るのすっごい楽なんだ」

「あそこ大がかりな魔法は使用禁止なのよ。空洞が崩れないようにって。当然、風魔法で飛ぶなんて絶対だめ。だから本来スマート鉱石は運良く落下してきたのを拾うしかない」

「なるほど。じゃあこれって、すごく貴重な石なんだ」

「そうね。ただ……需要はとても少ないわ」


 サキはコンコンと、チルトの手の中にあるスマート鉱石を叩く。


「需要が少ない? もしかして、ガラン石みたいに?」

「半分正解。この石にマナを増幅する効果は無いわ。魔法道具には向いてない鉱石よ」


 ガラン石もそうだった。マナを少ししか取り込めず、増幅もできないからゴミ石と呼ばれているとか。でも、だからこそアイリンの魔法で使うことができたのだ。


「スマート鉱石とガラン石の違いは、込められるマナの量よ。ガラン石は100%のマナを込めようとしても30%くらいになるけど、これは100%そのまま込められるの」

「100%……。説明だけ聞くと、魔法道具にも使えそうな気がするけど」

「一部の人は欲しがるみたいね。でもやっぱり増幅できないと意味がないわ。もっと簡単に手に入る鉱石で、120%や150%にできるのがあるし」

「あぁ……。増幅もできない、入手難度の高い石をわざわざ使う意味がないんだ」

「そういうこと。……でもそれは魔法道具の話。さあ、どう? アイリン。聞くまでもなさそうだけど」


 目をキラキラさせながら、スマート鉱石を見つめているアイリン。


「うん! スマート鉱石なら申し分ないよ! まったく出回らないから候補から外しちゃったんだけど、これなら今まで以上のことができると思う!」


 マナを増幅することなく、ガラン石よりもマナを多く込められる鉱石。アイリンの希望に完璧に応えている。そして、その石を調達できるのが……。


「ねぇサキー。なんの話? ボクよくわかんなくなってきたんだけど」


 なるほど、サキがチルトを紹介しようと思った理由がよくわかった。

 どうやら彼女は遺跡探索だけじゃなく、魔法道具の素材集めもできるようだ。今後スマート鉱石以外の物が必要になったとしても、彼女なら調達できる。


「ちょっと待ちなさい、チル。……どう? アイリン。チルのこと仲間に入れてみない?」


 サキは自信に満ちた顔でアイリンに問いかける。

 でもアイリンは相変わらず困った顔をして、腕を組んで悩み始めてしまった。

 それを見て、サキと、私も驚いてしまう。


「ちょっとアイリン? 悩むところじゃないでしょう?」

「アイリン……?」


 私もそう思う。顔を覗き込んでみると、ぱちっと目が合った。


「クラリーちゃん。どうしよう? いいかな?」

「えっ? う、うん。私は、いいと思うよ」

「ほんと? よかった」


 途端、アイリンの顔が明るくなった。


「うん! チルちゃんにもわたしの魔法! 一緒に研究して欲しいな!」

「アイちゃんの魔法? ……なんだろ? なんかワクワクしてきた。教えて教えて!」

「なんだったのよもう……。まぁいいわ。チル、説明してあげるから。ちょっと落ち着きなさい」


 アイリンとサキが、チルトに魔法の説明を始める。

 私は今の流れに、なんだかぽかんとしてしまっていた。

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