16「冒険科」クランリーテ


「補習仲間!?」


 期せずしてサキが紹介したい女の子と鉢合わせた私たちは、再び部室の中に戻っていた。

 彼女とアイリンは顔見知りだったようで……。


「属性魔法の補習でね。チルちゃんと一緒になって」

「なんかさー、意気投合しちゃったんだよ。属性魔法ってよくわかんない! って」

「ね!」

「はは……」


 属性魔法の学年トップと2位が目の前に揃ってるんだけどな。つい乾いた笑いが漏れてしまった。

 サキは何度目かの溜息をつき、


「はぁ……。まさかすでにアイリンと知り合っていたなんてね。クラリー、紹介するわ。彼女はチルト・ツリーグリース。彼女は……」

「はい! ボクは冒険科のチルトだよ、よろしくねー」

「クランリーテ・カルテルト。よろしく。やっぱり冒険科なんだ」


 この学校には三つの科がある。属性魔法科、医療薬学科、そして冒険科。

 属性魔法科が10クラスあるのに対し、医療薬学科は2クラス、冒険科は1クラスしかない。この学校は四大属性を中心に学ぶ学校だから、冒険科は特に少ないのだ。西にあるラワ王国の学校は冒険科の割合が多いと聞く。

 冒険科はその名の通り、将来冒険・探検家となるための授業を行う科だ。古代遺跡を探索したり、海の向こうの大陸調査などをする。

 基本的に身体能力の高い人が冒険科を選ぶ。駆け回っても息一つ切れていないのを見て、もしかしてと思ったのだ。


「冒険科でも四大属性の授業は一通りあるんだよねー。まいったよ」

「そんなの当たり前でしょ……。遺跡探索で魔法を使うこともあるんだから。どこの学校の冒険科でもあるわよ」

「くぅ、ボクは別になくてもなんとかなるのになぁ」


 頭の後ろで手を組んで、椅子を傾ける。ぐらんぐらん揺れているけど……まったく倒れそうにない。バランス感覚もいいみたいだ。


「ところでサキちゃん。チルちゃんとどういう関係なの? クラスも違うのに」

「チルは幼馴染みなのよ。家が近くてね」

「ボクの親、二人とも探検家で外に出てることが多くてさぁ。よくサキの家にお世話になってたんだ」

「へぇー! そうなんだ。なんかいいなぁそういうの!」

「チルトさんはご両親の影響で冒険科に?」

「んん? 呼び捨てでいいよ、クラちゃん」


 ク、クラちゃん……そういう風に呼ばれるのは初めてだ。

 戸惑う私には気付いてくれなかったようで、チルトは話を続ける。


「確かに影響はあるけど、体動かすの好きだからってのも大きいよ。将来は探検家になって、サキに魔法道具の素材を提供するつもりなんだ」

「あ、ちょっとチル! こんなところでそんな話しないでよ!」

「なんで? サキだって、ボクの取ってきた素材で魔法道具作って、ボクがもっと楽に探検できるようにって……」

「だからー! ここで話さないで!」


 サキは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。それを見てチルトが笑う。

 ちょっと羨ましいかも。こんな風に話せる幼馴染みって、私にはいないから。……を心配してくれる友だちはいるけど。


 二人がぎゃーぎゃー言い合っている隣で、アイリンがほっこりした笑顔を向ける。


「そっかぁ。二人は持ちつ持たれつなんだね。いいなぁ~……」

「だね。……だけど、ねぇチルト」

「ん? なになにー?」

「だったら属性魔法はきちんと覚えた方がよくない? その方が探検で困らないと思うんだけど」


 私がそう言うとチルトはちょっとむくれて、 


「むー、クラちゃんまでサキみたいなこと言わないでよー。いいんだってば。ボクには魔剣があるんだから」


「そうなの? それならまぁ……ん?」

「おぉ~、いいなぁチルちゃ……ん?」


 いま――さらっととんでもないこと言わなかった?


「「えぇ! 魔剣持ってるの!?」」

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