15「秘密の研究だから」クランリーテ


「サキちゃん、紹介って……?」

「アイリンの研究仲間を増やすってこと?」

「まぁそうなるわね。……なによ、嫌なの?」


 見ると、アイリンは顎に手を添えて考え込んでいる。

 それを見て眉をひそめるサキに、私はフォローを入れる。


「……サキ。たぶんアイリンは、あまり人数を増やしたくないんだと思う。そもそも秘密の研究だから」

「あはは……うん。クラリーちゃんの言う通り。ちょっとね」

「なっ、その子が周りに言いふらすんじゃないかって心配してるの? 大丈夫よ、そんなことしないから――」

「違うよ! そうじゃなくてね、純粋に人数が増えることに戸惑いがあるだけで……ごめんね、疑うわけじゃないんだよ」

「あっ、謝らないでよ。……あなたの気持ちはわかったけど、でも、本当に……」


 アイリンとサキは黙って俯いてしまう。

 ここは、私がもう一度助け船を出さないとかな。


「ねぇサキ。だったらさ、魔法のことは伏せてアイリンに紹介してみたらどうかな」

「魔法を、伏せて?」

「うん。とりあえず会ってみて、魔法のことを話すかどうかはアイリンに決めてもらう。どうかな? アイリン」

「えっ!? う……うん。それならいいよ」

「ちょっとクラリー? あたしに隠し事をしろっていうの?」

「それは……」


 じろっとサキに睨まれる。

 紹介したい人というのは、サキにとって大事な人なのかもしれない。だとしたらいい気はしないだろうし、ちょっと軽率だったかな……。

 そんなことを思っていると、サキは目を逸らして大きなため息をつく。


「はぁぁ~……。しょうがないわね、それでいいわ。でもたぶん、詳しく話すことになると思うわよ」


 サキはそう言うと、クスっと笑う。私とアイリンは目を見合わせて、首を傾げるのだった。



                  *



 話がまとまったところで、今日は解散することになった。

 なんだかんだ長いこと話し込んでいた。紹介する子もきっと帰ってしまっただろうから、明日休み時間に会うことにする。


「サキ。紹介したい子ってどんな子なの? サキの友だちなんだよね」

「そうね。あの子は――」


「サーーキィィ! どこにいるのぉぉーー?」


 突然、廊下に響く大きな声。


「サキー!! 風の塔にいるんでしょー! クラスの子に聞いたよーーー!」


 しかも……間違いない、サキを探している。

 見ると、サキ本人は額に手を当てて下を向いていた。


「あのバカ……こんな大声で」

「サキ、もしかして……?」

「そうよ。この声の子が、あたしが紹介しようと思ってた子」

「……あれ? わたし、この声どっかで聞いたことあるような……ないような?」


 そんなことを話していると、廊下の先からダダダダダッと女の子が駆けてくる。


「あっ、サキ! やっと見付けた! 探したよー。風の塔でかすぎっ!」


 まず目に入ったのは、オレンジ色の明るい髪だった。肩にかかる長めの髪を少しだけまとめて二つのお団子にしている。

 次に、元気のいい人懐っこい笑顔。


 ……大声出して走ってきたのに、息一つ切れていない。この子はもしかして……。


「ちょっと! 他の階でもそうやって探してたの……? うわ、そういうのやめなさいよね!」

「だってサキってば最近ボクと一緒に帰ってくれないしー。……あれ? あぁっ!!」

「あぁーーっ!」


 オレンジ髪の女の子が、アイリンを見て再び大声を上げる。

 アイリンはアイリンで、指をさして大声を出した。そして、


「アイちゃんだ!」

「チルちゃん!」


 お互い名前を呼び合ったのだった。

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