12「そこまで言うのなら」サキ


「なによ、そのとんでもない魔法!!」


 アイリンとクランリーテから魔法の説明を聞いて、あたしはガタンと椅子を後ろに倒して立ち上がった。


「その宝石! ガランせきを磨いたんでしょ? そんなちょっとしかマナを込められない石で、どうしてそんなことができるのよ」

「サキさんやっぱりすごい! よくわかったね! そもそもこの宝石はね、決まった魔法の発動と相手の位置の目印でしかないから。マナはちょっとでいいんだよ。魔法の内容を込めるのに、このガラン石がちょうどよくって」

「魔法の内容を込めるって……あなた、自分がとんでもないことしてるってわかってるの? 魔剣じゃない、そんなの!」


 あたしがそう指摘をするとクランリーテも、

 

「やっぱりサキさんもそう思う? 私も魔剣みたいだなって思ってたんだ」

「あれ? そうなの? わたし魔剣のことあんまり知らないんだよね……」

「っ……!?」

「……アイリン待って、ウソでしょ?」


 さすがのクランリーテも驚いている。あたしも声が出なかった。

 魔剣を知らずにこれを創ったって言うの……?


「な、なんなのよこの子。どれだけのものを創り出したか、わかってないってこと? ……ううん、もういい。とにかく今すぐ発表すべきよ! 先生か上の階にいる魔法研究者に相談しに行きましょ!」

「発表!? ま、待ってサキさん! わたしのこの魔法、未完成なの!」


 今度はアイリンが椅子を倒して立ち上がり、あたしにしがみついてきた。


「十分よ! これだけでも大発見なんだから! は、離しなさい!」

「はーなーさーなーいー! 発表なんて絶対だめ! 完成させるまで秘密なのー!」

「なんでよ! 発表すればもっと堂々と研究できるわよ? 学校から支援だって受けられるはず……たぶんだけど。とにかく損は無いはずよ」

「でもだめなのー!」

「ああもう、離しなさいってば!」


 がっちりしがみついて離れない。意外と、力が、強いわね、この子!


「……サキさん」


 スッと、クランリーテが立ち上がり、あたしの正面に立つ。


「な、なによ。……そもそもどうして、冷静なあなたが発表を勧めていないのよ」

「…………」


 クランリーテは黙って頭を下げた。


「なっ……」


(あのクランリーテが……あたしに?)


「私からもお願い、サキさん。アイリンの自由にしてあげて欲しい」

「な、なんでよ……さっきも言った通り、損は無いわよ?」

「そう? サキさんも少し迷ってたじゃない。学校から支援が受けられるか、どうか」

「それは……」


 この学校は、四大属性を中心に学ぶ学校。それはここが、四属性をもっとも重視する国だからだ。その四大属性魔法研究の中心でもあるこの学校で、未分類魔法を本当にきちんと研究できるのか。少し、不安がある。


「でもさすがに、これほどの魔法は無視できないでしょう?」

「まあね。それは私も思うけど。……でもね」


 クランリーテは、未だにあたしにしがみついているアイリンを見る。


「未分類魔法には、可能性が眠っている。アイリンの好きなようにやった方が、上手く行くと思うんだよ。なんとなく」

「なんとなくって、そんなのでいいの?」

「うん。それに私も……すぐ側で見たくなっちゃったんだよ。アイリンのこの魔法が完成するところ。それが、発表を勧めなかった理由かな」

「なによ、それ……」

「く……クラリーちゃん! そんな風に思ってくれてたんだ? ありがとう、嬉しいよ~!!」


 アイリンはようやくあたしから離れ、今度はクランリーテに飛びついた。


「うわ……って、アイリン」

「あぁ! サキさんを放しちゃった!」


 おそるおそる振り返るアイリンと目が合う。

 次いで、真剣な目をしたクランリーテと。


 彼女は……優しく、微笑んだ。


「……しょ、しょうがない、わね。そこまで言うなら、黙っててあげてもいいわ」

「ほ、ほんとう……? サキさん!」


 再び、アイリンが抱きついてくる。


「暑苦しいわねあんた! あ、安心するのは早いわよ!」

「え、どういうこと? ま、まさか、口止め料を……。わたしお金はあんまり」

「そんなのいらないわよ! 失礼ね……。その、黙ってる代わりに……」

「代わりに……?」


 ちらりとクランリーテを見る。目が合い、あたしはすぐに逸らした。


「あたしにもその研究、手伝わせなさい!」

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