10「誤魔化されて」サキ


「誰、だっけ?」

「なっ――――!!!!」


 その瞬間、どこかでブチンという音が聞こえた。


「そーーーーでしたわね! 初めましてクランリーテ! あたしはサキ・ソウエンカ。まぁ知らなくて当然よ。クラス違うんだし。気にすることはないわ! ちなみに実技試験は四属性すべて2位。あなたの一つ下の2位よ! この学校はトップの人しか発表されないからあたしの名前なんて知らなくて当然なの。わかった!?」

「あ……うん。ごめん、本当に知らなくて」

「だから謝る必要ないって言ってるのよ!」


 トップしか発表されないから、誰が自分の真下にいるかなんてわからない。

 クラスの違うクランリーテがあたしのことを知ってるはずがない。

 わかってた。わかってたけど……。


「で、でも、四属性全部2位ってすごいと思うよ」

「トップに褒められても嬉しくないわよ!」

「あっ……それもそっか……」

「くぬぬぬぬ……」


 ムカツク!

 バカにするつもりはないんだろうけど、イライラするわ!

 見てなさい、いつかあたしがトップになってみせるんだから!

 あたしはググッと怒りを闘志に変換する。魔法と同じだ。イメージを作って怒りを抑え込む。抑え込んだ気持ちが、思い描いた闘志へと変わっていく。心が熱く燃え上がっていく。すると、頭は少しだけ冷静になれた。


「っ……それより、今、なにしてたのよ」


 そう、聞きたいのはそっちだ。あたしは生まれた闘志を脇に置いて、切り替える。


「さっきの、独り言? には見えなかった。誰かと話してたわよね。誰もいないけど……声がしたわ」

「う、ううん? 私が一人で喋ってたんだよ。独り言、独り言」

「嘘! あたし聞いたんだから! テストは成功だとか、学校内はカバーできてるとか、話してたわよね」

「あっ、そんなところから……? いや、ええと……それは」

「それは?」


 クランリーテは目を逸らし、言いにくそうに、


「す、スピーチ! スピーチの練習をしていたんだ」


 と言った。あたしはあからさまに訝しんで、首を傾げる。


「スピーチぃ?」

「ほ、ほら。まだかなり先だと思うけど、魔法の研究発表とか……授業で、やるでしょう? 私そういうの得意じゃないから、今から練習しようと思って」

「ふーん……? でもスピーチじゃなくて会話だったと思うんだけど。明らかに別人の声も……」

「か、会話形式にしてみたんだ。練習の時はそうした方がいいってどっかで見て。声色も変えてみたんだけど、そっか、別人に聞こえたんだ」

「こ、声色? う、うーん……」


 一人で会話形式のスピーチ練習をしていた……。

 誰も居ない水の塔で、こっそりと。


「そ、そう。あなたもそういう、練習とかするのね」

「え? あ、うん。もちろん。その、魔法と一緒だと思うから」

「そう……」


 魔法と一緒。自分の使いたい魔法をすぐにイメージできるように。鋳型を作れるように。

 彼女もそういう練習をしているってことよね。

 普段から、努力を。


「わかったわ。邪魔して悪かったわね」

「う、ううん? そんなことないよ。…………ほっ」


 納得してしまった。スピーチの練習なら仕方がない。スピーチの、練習……なら……。

 やっぱりちょっと怪しいけど、これ以上突っ込んで後をつけていたのがバレても困る。

 さっきの言葉。彼女の才が努力に支えられたものだとわかったんだから、もういい。


 あたしは彼女に背を向ける。来た道を戻ろうとして……その廊下の先から誰かが駆けてくるのが見えた。


「クラリーちゃぁぁぁぁん! 声聞こえなくなっちゃったけど大丈夫? なにか問題起きた? 魔法切れちゃった?」

「え……? 魔法?」

「あ、アイリン! だめ、だめ!」

「えっ、あっ、ああっ! 人がいたんだ!?」

「その声……」


 正面から駆けてきたのは、ブラウンカラーの女の子。さっきまでクランリーテがいた部屋に、後から入っていった子だ。

 手には紐で縛ってある白い宝石。振り返ると、女の子の声を制止するために手を開いたクランリーテ。そこにも、まったく同じ種類の宝石がある。

 あたしの視線に気付いてクランリーテはすぐに宝石を隠すが、もう遅い。


「サキさん、待って。これは違うの」

「あわわわわ、魔法ばれちゃった? どうしようクラリーちゃん」

「アイリン少し黙って」


 クランリーテがアイリンと呼ぶこの子の声、間違いない、さっき聞こえた声と同じ。

 ……魔法って言ったわよね? いったい、なんの?


「ねぇ……なにが、どうなってるか。説明してもらってもいい?」

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