8「どこまで届くのか」クランリーテ


「おまたせー! クラリーちゃん!」

「おつかれさま。補習、どうだった?」


 部室で一人待っていると、ようやくアイリンがやってきた。


「ぜんぜんダメだった~。火属性の補習だったんだけど、どうしても上手くできなくって。手のひらから煙が出るだけなんだよ」

「煙……? いったいどんなイメージしてるの……。今度、時間ある時に教えてあげるよ。属性魔法のこと」

「ほんとに? やった、学年トップのクラリーちゃんから教わればわたしも試験くらいは合格できるかな!」

「あはは……。でも、そうだね。部活のためにも、補習にならないくらいにはしなくちゃね」

「……ごもっともです。って、そうだ補習のせいで時間ないんだった! さっそくテストしよう、クラリーちゃん!」

「うん。距離のテスト、だよね?」


 今日の未分類魔法クラフト部の活動内容。

 それは例の離れた場所にいても会話できる魔法が、いったいどのくらいの距離まで使えるのか? それを確かめる。


「こればっかりは絶対に一人じゃ試せなかったんだよね」

「……本当に、一人でどうやって完成させるつもりだったの?」

「えへへ……。えっとね、わたしの予想では、少なくとも学校内はカバーできてると思うんだよ。だから……」

「ん。私が、ここの反対側にある水の塔に行けばいいんだね」


 この学校は、正方形の大きな校舎の周りに四つの塔が建っている。塔はそれぞれ四属性の魔法を研究するための塔で、階によっては特別教室やここのように部活で使ったりしている。

 北にある火属性から時計回りに風、地、水属性で、風の塔の反対は水の塔というわけだ。


「うん! お願い、クラリーちゃん」

「任せて。じゃ、ちょっと行ってくるよ」


 ガチャ。

 扉を開けて外に出ると……長い真っ赤な髪の女の子が廊下を駆けて行くのが見えた。

 なんだろう、なにか慌てていたみたいだけど。


「……まぁいいか」


 それよりも時間がもったいない。私は早足で水の塔へ向かった。




『あー、あー、聞こえる? クラリーちゃん』

「……うん、聞こえてるよ。これから水の塔に入るね」


 握った宝石に、こっそり話しかける。

 今さらながら……これ、誰かに見られたらマズイ。色んな意味で。


「アイリン。周りに誰もいない時だけ話そう。コンコンって二回叩くから、それを合図に」

『あっ、そうだね! クラリーちゃん頭良い! 了解だよ!』

「ふぅ……」


 この魔法のことを秘密にしておきたいと言うわりには、アイリンは警戒心が足りない。この宝石だって私の前で落としたし。私の方で色々と気を付けた方が良さそうだ。

 水の塔に入り、廊下を歩く。塔と言っても、部屋がずらりと並べられるくらいには大きい。ここって何階まであるんだろう? 上の方は生徒立ち入り禁止の研究施設で、どれだけあるかわからない。校舎が七階建てで、塔はそれよりも高い。四階までは連絡通路が繋がっているけど、その上のことは生徒はあまり知らないのだ。


 弧を描く廊下を進み、入口と反対側に辿り着き、周りに誰もいないのを確認してコンコンと宝石を叩く。


「アイリン、聞こえる?」

『うん! 聞こえてるよ。クラリーちゃん、いまどのへん?』

「水の塔の、そっちから見て一番奥。テストは成功かな?」

『おおぉぉ! やっぱり学校内はカバーできてる! やったぁ!』

「本当に、すごい魔法だよ……アイリン」


 こんなに離れていても、声の感じはまったく変わらない。ちゃんと魔法が機能しているんだ。巨大な校舎に四つの塔で敷地はかなり広いのに。もしかしたら街全体をカバーできてるんじゃないかな。


「もう何度でも言うけど、すごいよね。少しわかったつもりだったけど、この距離で話せるのが不思議でしょうがないよ」

『もうクラリーちゃん、そんなに褒めないでよ」

「いやだって……。ちなみに、マナを込めれば込めるほど遠くまで話せるの?」

『ううん、マナの量で距離は変わらないよ。というか、そこまでマナを込められる石じゃないんだぁ』

「そうなんだ? そういえば、この宝石って……」


「……ねぇ、クランリーテ。あなた、なにしてるのよ……」

「……あっ」


 振り返ると、そこには。

 真っ赤な髪の女の子。さっき見かけた子が、腕を組んで立っていた。

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