5「未分類魔法」クランリーテ


「――すごい! すごい魔法だよ、アイリンさん!!」


 私が目をキラキラさせて立ち上がると、

 ガタン! 負けじとアイリンも立ち上がった。


「ほんと? もしかしてクランリーテさんも未分類魔法に興味あったりする!?」


 しかも私の肩を掴んでがくんがくんと大きく揺さ振ってきた。


「えっ……みっ、未分類、魔法って」

「はっ!? ご、ごめんね。あはは、つい興奮しちゃった」

「あ……わ、私の方こそ」


 お互い少し恥ずかしくなり、椅子に座り直す。


 未分類魔法……ね。

 彼女の魔法が属性魔法でないことは気付いてはいたけど、やっぱりそうなんだ。


 私たちが普段使っている魔法は属性魔法だ。

 でもそれ以外に魔法が無いわけじゃない。それらはすべて、未分類魔法と呼ばれている。


 なぜ未分類なのかと言うと、必要ない魔法だから。

 属性魔法があれば生活にも古代遺跡の調査にもまったく問題が無い。問題がないように、四属性の魔法は研鑽されている。

 学ぶ必要のない、不必要な魔法。それが未分類魔法。


 特に私たちの暮らすターヤ王国はその意識が強い。属性魔法こそが世界を創り出したとまで言うひとたちがいる。未分類魔法を研究する人なんてこの国にはいないと思う。

 私も未分類魔法は知識として知っているだけで、どんなものがあるのかわからなかった。


「……あ、未分類魔法といえばそうだ。今日の実技試験、あの十字の板のことも聞きたかったんだ」

「あぁー!? み、見ちゃった? 恥ずかしいなぁ。そうだね、あれも未分類魔法になっちゃうかな。風を起こさなきゃって思ったらあの形をイメージしちゃって。ほら、こんな感じ」


 アイリンが手のひらをかざすと、そこに十字に組まれた板が生み出された。近くで見るとそれは少し捻ってあって、先の方は丸くなっている。ブゥゥゥンと音を立てて高速回転を始めると、心地よい風が吹き出した。実技試験の時よりも完成度が高いのは、属性魔法を意識しないで創ったからだろう。


「風は吹いたけど……アイリンさん、これじゃやっぱり実技試験は失格だよ」

「だよね~。風属性魔法じゃないもんね」


 面白い魔法だとは思うけど……やっぱり効率が悪すぎる。

 風属性魔法なら直接風を起こせる。木の板なんていらない。


 ……そっか、これが未分類魔法が未分類たる由縁なんだ。効率が悪く、必要がない。

 こうやって魔法は分類されていき、属性魔法以外は排斥されていったんだ。


 でも。

 アイリンの手のひらと、テーブルの宝石を見る。


「私、初めて見たよ。こんな魔法。この宝石だってそう。これが、未分類魔法なんだ……」

「クランリーテさん……。あのね」


 宝石から顔を上げると、アイリンがじっと私のことを見つめていた。


「確かに未分類魔法は必要ない魔法かもしれないけど……可能性が眠ってるんだよ」

「可能性が、眠ってる……」


 ドクン――。彼女の言葉に、胸が高鳴る。

 未分類魔法。世界が必要ないとしたものの中に、可能性がある。


「そしてね、ここは『未分類魔法クラフト部』なんだよ!」




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