4「キラキラ」クランリーテ
「ど、どうぞっ」
「うん、お邪魔します」
私たちはアイリンが飛び出してきた部屋に場所を移した。どうもあまり聞かれたい話ではないらしい。
中に入ると、そこは授業で使う教室の三分の一ほどの狭い部屋。右側の大きな棚には本や鞄(たぶんアイリンの)など雑多な物が収まっている。
左側のテーブルもまたゴチャゴチャしていて、作業台が置かれその上は布や紐の切れ端が散らばっていた。小さなナイフもある。もしかしたらここでこの宝石を作ったのかもしれない。
卓上に置かれた棚は小さな抽斗がいっぱい付いている。小物入れだろうか。抽斗の一つは小石が詰まっていて閉まりきっていなかった。全体的にごちゃっとした印象があるのは狭いからだけではなさそうだ。
まるでアイリンの私室みたいだけど、そんなはずはない。いったい、なんの部屋なんだろう?
「ごめんね散らかってて。椅子あるから座って座って」
「あ、うん。大丈夫」
私たちはテーブルと右の棚の間に向かい合って座る。
アイリンがテーブルに宝石を置いたので、私も拾ったのを並べて置く。今はもう光ってない。
そうだ、部屋のことなんかよりこの宝石だ。
「アイリンさん。自分で言っておいてなんだけど、実はまだ信じられてないんだ……。本当に、離れた人と会話ができる魔法なの?」
「うん、そうだよ。……本当はちゃんと完成するまで誰にも秘密にしておきたかったんだけどね」
「でも……」
「わかってるよ~。クランリーテさんには話さないとだよね」
私は黙って頷いた。実際に見てしまった(話してしまった?)以上、聞かせてもらうまで帰れない。
「わたしの創ってる魔法はね、この二つの宝石を使うの。これを持っているひと同士、離れていても会話ができるんだよ」
「それって……。じゃあこれは魔法道具なの?」
とんでもない魔法だよ、と言いかけてやめる。それはもうわかってる。今はどういう魔法なのか詳しく聞くターンだ。
「ん~、ちょっと違うかなぁ。あくまで魔法の媒体っていうか、印というか」
「印? ……そっか、相手の位置を特定して魔法を繋げる。そのための目印が必要なんだ」
「そうそう! さっすがクランリーテさん! 話が早い!」
この宝石が声を届ける先の目印なら、確かに魔法道具とは役割が違う。
魔法を補助したり増幅したりするのが魔法道具だからだ。
これはあくまで、二人の魔法を繋げるためのもので――。
「――あ、待って。それだけじゃないよね? 私、声を届ける魔法なんて使ってない。そもそもそんな魔法があるって今初めて知ったんだから。イメージだってできないよ」
「うん。じゃあ仕組みから説明するね。この宝石に片方がマナを込めると、もう一つも光るようになっててね。今回はわたしが慌てて、マナを流し込んじゃったんだと思う」
どうだろう? 確か拾った途端光りだしたから、私が思わずマナを流してしまった可能性もある。
にしても、片方にマナが入るともう片方も光る? まずその仕組みがわからないし、そんな魔法やっぱり聞いたことがない。
「はぁ……どうやってるのか想像できない……。でも、それで私の声までそっちに届くものなの? 目印ができても、私が声を飛ばす魔法を使わないとダメじゃない?」
「続きを説明するね。宝石にマナを込めると、予め決まった魔法が発動するんだ。それでクランリーテさんの声が届くようになるの」
「へぇー……え? ちょ、ちょっと待って。それってつまり、私がイメージしなくても、この宝石が……勝手に、魔法を?」
「うん。相手とまったく同じ魔法にしないと繋がらないからね。でも人によって魔法のイメージが違うでしょ? どうしても小さな違いが出ちゃうから普通にこの魔法を使うと繋がらないんだよ。だから――あっ、安心して! 使うマナはちょびっとだから」
「それは……よかった、けど」
一瞬ギクリとしたけれど、それよりも……。
私はじっとテーブルの上の宝石を見つめる。
魔法は基本的に使用者のイメージで発動する魔法が決まるんだけど、例外がある。
古代遺跡から見付かる古代文明のアーティファクト、魔剣。
イメージは必要なく、魔剣にマナを込めるだけで決まった特殊な魔法が発動するという。
この宝石は、それと同じなんじゃ?
魔剣の構造や仕組みは解明されてなくて、再現不能なはずだけど……。
アイリンはこのこと知ってるのかな? この魔法は本当に、本当に――!!
「クランリーテさん? だいじょうぶ? 難しい顔してるけど、あの」
「すっ……す、すす、すっ」
「……す?」
やばい、もう抑えきれない。
ガタン! と勢いよく椅子から立ち上がった。
「――すごい! すごい魔法だよ、アイリンさん!!」
私の知ってる属性魔法とは違う。
未知の魔法に、私は目をキラキラとさせていた。
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