3「属性魔法が苦手な少女の魔法」クランリーテ


「ねぇアイリンさん。この宝石から聞こえた声って……魔法なの?」

「え、え? ままま、魔法? 声ってなんのこと? カナ?」

「いやいやなんで誤魔化すの」


 目を泳がせてあからさまにしらばっくれるアイリンに、ついそんなツッコミを入れてしまう。


「この宝石からアイリンさんの声が聞こえたよ」

「キノセイジャナイカナー? わたしの声じゃないヨー」

「いいや間違いない。魔法発動しちゃったって言ってた。それにほら、アイリンさんも同じ宝石持ってる」


 アイリンの持っている宝石を指すと、彼女は慌ててそれをポケットに隠した。


「そ、そんなこと言ってないし? なにも持ってないよ。うん、見間違いじゃないかなぁ? だいたいそんな魔法あるわけないよ~」

「むっ……」


 この期に及んでまだ誤魔化そうとするんだ。

 目を逸らしてふーふー言ってる(口笛のつもり?)その態度でバレバレなのに。


 この世界で魔法と言えば、四属性魔法のことを指すのが普通だ。

 火属性、水属性、風属性、土属性が魔法の基礎。そこから派生属性や回復魔法などに枝分かれするけど、基本的に四属性に分類されている。


 でもこの宝石から聞こえてくる声が本当に魔法なら。

 四属性には分類されない気がする。

 だから私にはこれがどんな魔法か説明できず、アイリンの魔法だということも証明できなかった。

 バレバレでも無理があっても誤魔化し続けられたらどうしようもないんだ。


「……わかった。アイリンさんがそう言うならそうなんだろうね」

「ほっ……」

「じゃあこの声のする宝石は先生に預けてくるよ」

「えっ!? 待って、なんで!?」

「落とし物を届けるのは普通でしょ。声が聞こえたのは間違いないんだけど、アイリンさんの声じゃないんだよね? すっごく似てたけど」

「そ、それは……その」

「アイリンさん同じの持ってるように見えたけど、私の見間違いだったみたいだし?」

「ふぉ!?」

「つまり、アイリンさんじゃない誰かが、宝石から声を出す魔法を発動させたんだ。本当の持ち主に返さなきゃ」


 宝石をぎゅっと握って、そのままアイリンに背を向けると――


 ガシッ!


「だ、だめ!」

「うおっ」


 力いっぱい肩を掴まれて後ろに倒れそうになる。


「あ、危ないよ」

「うぅぅぅぅ、ごめんなさーい! わたしです、わたしの声です! それもわたしが作りました! 同じの持ってるしクランリーテさんの見間違いじゃないです!」

「……本当に? これ、アイリンさんが作ったの?」

「うん……」

「声も……魔法なんだ?」

「そうだよ~……」

「魔法……」


 宝石から聞こえたのはやっぱりアイリンの声で、それは魔法によるものだった。

 どんな魔法なのかわからないけど、でも、さっき私たちはそれで会話をした――。


 私はくるっと回って、アイリンと向き合う。


「アイリンさん、詳しく教えて」

「うぅ、わかったよう。でも場所変えていい?」

「構わない。でも先に一つだけ」


 手にした宝石をアイリンに差し出す。宝石はまだ淡く光ったままだ。


「これってもしかして、離れた人と会話ができる魔法なの?!」

「しーっ! 大きな声で言わないで! …………うん、そうだよ」



 属性魔法が苦手で、クラスでも落ちこぼれと言われていたアイリン・アスフィール。

 だけど彼女は、とんでもない魔法を作っていた。




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