2「運命の落とし物」クランリーテ
十字に組んだ板を創り出し、それを回転させて風を起こす。
そんな魔法見たことも聞いたこともない。
だって、普通に風属性魔法で風を吹かせた方が早いから。そんな効率の悪いこと誰もしない。
だけどあのアイリン・アスフィールは。風属性魔法を――風を起こそうとして、あんなものを創り出した。
おそらく、彼女にとっての『風』がそういうイメージなんだ。
だからきっと風属性魔法が上手く発動しないんだろう。
(そんな人がいるなんて……。不思議な子だ)
少し……いや、かなり気になる。
でも入学して一ヶ月、同じクラスなのにアイリンとは一度も話したことがない。いきなり、あの魔法はなんだったの? なんて聞きにくい。
それに、時間がたつと自分の推測が合っているのか不安になってきた。そんな方法で風を吹かせようとするはずがない、なにかの見間違いだ、という思いが強くなりどんどん聞けなくなっていく。
どうしたもんかなぁと、放課後になってもそのことを考えてしまい、当てもなく校舎を歩いていた。
ターヤ中央区高等魔法学校の校舎は七階建ての巨大な正方形をしている。そして四つの角の先にこれまた巨大な塔が建っていた。
それらは四属性魔法の研究塔になっていて、私はいつの間にか風属性魔法の研究塔、通称風の塔まで来ていた。
塔の四階までは特別教室や部活動の部室に使われていて、そこから上が研究施設。でも部屋が多すぎてまだ全然把握できていない。特に今いる三階は小部屋が多いのかドアがたくさんある。全部の部屋が使われてるとは思えなかった。
「ん? なんだこれ」
廊下になにか落ちている。
白い……宝石? 滑らかな楕円の球を紐で縛り、指に引っかけられるように先が輪っかになっている。
魔法道具かただのアクセサリーか。私はそれを拾い上げた。すると、
「――えっ? 光った?」
宝石に淡い光が灯る。柔らかい、暖かい光だ。
……マナだ。その光から、微かなマナを感じる。
やっぱり魔法道具らしい。どういうタイプのものかわからないけど。
だとしたら早く持ち主を見付けないと。困っているかもしれない。
『ない、ない! 片方落とした! どうしよう、どこで落としたんだろう!?』
「――――!?」
突然そんな声が聞こえ、私は驚いて辺りを見渡す。
……誰もいない。
わかってる。いま、声がどこから聞こえたのか。でもそれを受け入れられなくて、つい周りを見てしまったのだ。
『鞄に入れたかなぁ。ううん、間違いなくポケットに入れたはず!』
間違いなかった。いま、手の中にある、宝石から声が聞こえている。
おそらく持ち主であろう人物の、焦った声が。
「……宝石なら、拾ったけど」
って、私なにしてるんだ。
声がしたからって、宝石に返事をしてどうする?
聞こえるはずがない。なのに、
『え……ほんとに? って、あぁっ!! 魔法発動しちゃってる?』
声の主が返事をした。
……魔法? ていうかこの声って……?
『うわっ、わわわわわっ! どうしよう! あ、でもちゃんと話せた!』
「うん……話せてるね」
うっわ、私はいま宝石と会話をしてる。
……いや違う。この宝石の向こうに誰かがいて、その誰かと会話をしているんだ。
『あの! それ、どこで拾いましたか!』
「風属性研究塔……風の塔の三階。一番奥の階段近くなんだけど」
返事をしながら、私は声の主をある人物で想像してしまっていた。
いやでも、まさか……そんな。
『ほんと? よかった近くだ! すぐに行くね!』
バンッ!
声とほぼ同時に、少し離れたところのドアが勢いよく開いた。
そして、飛び出してきたのは私の想像通りの人物だった。
「よかったぁ! ありがとう拾ってくれて……あれ? クランリーテさん!?」
「……どうも。アイリンさん」
アイリンはその場で石のように固まってしまった。
彼女の手の中には、私が拾ったのと同じ淡く光る白い宝石がある。
これって、本当に……。
私は意を決して訊ねる。
「ねぇアイリンさん。この宝石から聞こえた声って……魔法なの?」
すると彼女は、
「え、え? ままま、魔法? 声ってなんのこと? カナ?」
しらばっくれた。
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