未分類魔法クラフト部【第四部完結】
告井 凪
第一部・一学期編
クラフト1 未分類魔法との出会い
1「この世界の魔法」クランリーテ
「クランリーテ・カルテルトです。……よろしくお願いします」
試験官の先生に礼をして、私は右腕を真っ直ぐ上に伸ばし手のひらを広げた。
三階まで吹き抜けになっている巨大な魔法演舞場。
中心に立ち、私はこれから使う魔法をイメージする。
勢いよく吹き上げる風。下から上へと駆け上がるような、天へを打ち上げるような風だ。
そして、イメージが私の中に。暴風を生み出す。
少し、強いかな? 吹き荒れる凄まじい風を抑制、流れを作り範囲を一点に向けるようにイメージを変えていく。
うん、いい感じ。これくらいがちょうどいい。
風のイメージが完成する。それはそのまま私の魔法になる。
この暴風を、解き放つ!
「――ライジング・ウィンド!」
ビュオオオオオォォォォ!!
駆け上がる風、天へと打ち上げる強風。荒々しい風が吹き荒れる。
イメージした通りに、私を中心に渦を巻く。
そして嵐のような強風は、
「きゃぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ! ノートが!」
「すごすぎだろっ……!!」
……周りのみんなを巻き込む暴風となった。
抑えたつもりだったんだけどな。範囲が大きくなってしまった。近くに居た人のノートを巻き上げ、女の子は制服のスカートを押えている。赤いブレザーが脱げてしまった男子もいて、あちこちで悲鳴と歓声が上がっていた。
魔法の中心、風の中心にいた私は被害はなかったんだけど、水色の短い髪だけ軽く整える。そしてみんなが落ち着くのを待ってから頭を下げた。
すると再び歓声が上がり、盛大な拍手が巻き起こる。
「すげーな! やっぱ学年トップの魔法は違うぜ!」
「うぅ、私もあんな才能が欲しい。将来安泰だよねぇ。羨ましいなぁ」
「さすがですね、クランリーテさん。呪文詠唱無しでここまで……。文句なし、合格です」
「……ありがとうございます」
採点をしてくれた先生にもう一度頭を下げて、心の中で呟く。
(誰かが将来安泰って言ってたけど……。そんなこと、ないんだけどな)
ここは、ターヤ中央区高等魔法学校。
ターヤ王国で一番大きな魔法学校で、今日は入学して初めての実技試験が校内で行われていた。
先生の言う通り、呪文の詠唱無しでここまでの威力の魔法はなかなか出せない。
でも想定より大きな魔法になってしまったのはコントロールが甘い証拠。自分の中ではそこまで褒められた魔法ではなかった。
魔法を使うには、世界中に満ちている魔法の源「マナ」を体内に取り込み、望んだ形にしてから放出する。
大事なのは、使いたい魔法をイメージする力。自分の中に魔法の
その魔法のイメージを固めるために、普通は呪文の詠唱を行う。呪文の文脈でイメージを補正するのはもちろん、この呪文はこの魔法と決めておくことで容易にイメージできるよう訓練できる。
……私は呪文に頼らなくてもきちんとイメージができるから、詠唱をすることがあまりない。魔法の名前を呼ぶ必要もないくらいだ。
呪文の役割はあくまで魔法のイメージの補佐。だから教わった通りに呪文を唱えたからといって魔法が上手く発動するとは限らない。いくら洗礼されたイメージし易い定型の呪文を詠唱しても、イメージできず上手く魔法が発動できないことはある。例えば……。
「では次……」
「はいっ。アイリン・アスフィールです。お願いしますっ! ……風は吹き抜ける。舞い上がる。集いし魔力は風となる!」
そう、例えば次に試験を受ける彼女。
長いブラウンの髪を右側で結わえた女の子で、いつも星形のヘアピンを付けているからなんとなく覚えていた。
彼女はこれまでの授業で見た限り、魔法をイメージするのがとても下手だ。
唱え始めた呪文は風属性魔法の授業で真っ先に教わる簡単な呪文だけど……。
「手のひらより撃ち出せ、ウィンドぉぉ……ショット!」
……へろへろへろ。
風は、確かに吹いたと思う。とても弱々しいそよ風が。
「アイリンさんは補習ですね……」
「あ、あれー? おかしいなぁ」
やれやれ。いくらなんでも下手過ぎる。呪文の詠唱中、別のことでも考えているのかな? 本人ふざけている様子はないし、むしろ気合の入った詠唱だったのに。なんでそよ風になってしまうんだろう。
「……うん?」
不思議な子だなってじっと見ていたら、あることに気が付いた。
腕を挙げ続けたままの、彼女の手のひら。
そこに、十字に組まれた小さな板のようなものが見えた。
すぐに消えてしまったけど……ん? 消えたってことは魔法で創ったってことだよね? あ、もしかして板を回転させて風を吹かせようとしたとか?
……そんなまどろっこしいことを? まさかそんな――。
(でも――あんな魔法、初めて見たな……)
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