第95話 近代兵器
「それでは、試合開始!」
試合開始と共に、ノルドの三人はバッとマントを脱ぎ去った。
マントが宙を舞うと同時に、グレーの軍服を身に纏った三人がギラリと黒く光る金属製の武器を構えていた。
――銃、だと……!?
やばい! あれが遠距離武器だと僕しか知らない!
「先輩! 物理障へ――「ファイア!!」
シオン先輩とクリステル先輩に注意を促す間もなく、
即座に『
中央に立つ射浜さんの手にはアサルトライフル、両脇の二人の手にはハンドガン。
不幸中の幸いか、最も脅威であると思われるアサルトライフルの照準は僕に定まっていた。
――ダダダダダダダダッ!!
――ダーンッダーンッダーンッ!
どちらか片方のカバーにしか入れないため、迷わずクリステル先輩への射線を遮るように前に出る。
シオン先輩は自力でどうにでもするだろう。きっと。
――ギギギギギギィンッ!!
雷薙を抜き放ち、迫る銃弾を斬り、弾く。
絶え間なく放たれる銃弾と雷薙が激しくぶつかり合い、細かい火花が無数に舞う。
チラリと隣のシオン先輩に視線を向けると、右手を翳し闘気『
頬にできた一筋の傷から若干出血しているが、戦いに支障はなさそうだ。
銃弾を弾く僕を見て射浜さんは一瞬目を剥き、すぐに腰から抜いたリボルバーを撃ち放った。
しかし焦って抜いたせいか狙いが逸れており、僕の股下の地面に着弾した。
「きゃッ!?」
その瞬間、背後からクリステル先輩の悲鳴が聞こえた。
咄嗟に振り返ると、クリステル先輩が右腕と左太腿に血を滲ませていた。
――まさか、跳弾でクリステル先輩を狙い撃ちにした?
そんなこと狙ってできるもんなのか!?
だとしても、先輩が展開していた障壁をどうやって貫通したんだ?
様々な疑問が頭を過るが、この状況を考察する間もなく、またもや無数の銃弾が襲いかかってきた。
「クッ!」
歯噛みしつつ銃弾を弾き、防ぐ。
「シリウスさん、私は大丈夫ですわ。あの武器についても大体理解できましたし、対処できますわ」
「うん。最初はビックリしたけど、金属製の塊を直線的に飛ばすだけのようだしね。そろそろ攻勢に出ようか」
「分かりました。僕が中央の女性をやるので、残りの二人をお願いします!」
「承知しましたわ!」
「あぁ、任せてくれ!」
二人の力強い返事を聞き、僕は銃弾を弾きつつ射浜さんに迫る。
「クッ! パターン・ベータ!」
射浜さんは叫びつつ、素早くバックステップを踏んだ。
射浜さんの号令が響き、条件反射の如く残りの二人が弾かれたように飛び出す。
ナイフとハンドガンを持ったディンさんと、長剣を持った小柄な男子生徒が射浜さんを守るよう僕に襲いかかってきた。
「『
凛とした声が背後から響き、二人の僕への接近を阻むように氷の槍が降り注いだ。
「貴方達の相手は私達ですわ! 『
二人が『
被弾した痛みで魔術に集中することは難しいはずなのに、これだけの魔術を的確に放てるとは流石である。
ノルドの二人は先輩達がキッチリ引きつけてくれるようだ。
◆
射浜さんは僕を近づけさせないように銃弾の嵐で妨害しつつ、逃げ回り始めた。
彼女の素早い動きに合わせ、ポニーテールも激しく揺れ動く。
しかも彼女はプラスチック性の黒縁メガネを装着していた。転移者であることを隠す気は全く無いようだ。
「ちょ! 中ボスがいきなり強すぎるんですけどぉ!」
射浜さんはそう叫びつつも、ギリギリのところで僕の攻撃を躱しつつ的確に攻撃を放ってくる。
凄まじい動体視力と反射神経だ。
「一フレームのミスでゲームオーバーな無理ゲーを現実でやることになるなんて…… ねッ!」
強く地を蹴り僕と距離を取った射浜さんは、目の前に手榴弾を放り投げた。
銃器があるのだ、手榴弾くらい持っていてもおかしくはない。想定の範囲内だ。
僕は構わず『
「ちょ、まっ――」
射浜さんの眼前で手榴弾は炸裂し、爆音が耳をつんざく。また同時にガラスが割れるような音が聞こえた。魔力は感じなかったが、スキルによる障壁だろう。
そのまま爆煙に突っ込み、射浜さんへ居合抜きを放つ。
紫電を伴った一閃は爆煙をも切り裂き、射浜さんに致命傷を与え場外へ退場させていた。
よし、後は二人だ!
そう思い後ろを振り向くと、先輩達もほとんど同時に勝負を決していた。
「ふぅ、中々面白い武器だけど慣れればそうでもないね」
「私はギリギリでしたわ……」
流石頼りになる先輩たちだ、難なくタイマンを制してくれていた。
「試合終了! セントラル冒険者学校の勝利!」
「「「おおおおおおお!!!!」」」
「きゃーー!! シオン様ァァァァ!!!」
「シリウスくぅぅぅん!!!」
「やっぱセントラルはつええな!」
「去年も強かったけど、今年入ったあの小僧やばくねぇか!?」
「いやセントラルもヤバかったけど今年のノルドも強くね!?」
闘技場は歓声に包まれ、シオン先輩とクリステル先輩は笑顔で手を振り返したりしている。まるで芸能人みたいだ。
僕は小さく一礼し、そそくさと退場したのであった。
◆
『ねぇ、君!!』
控室へと歩き出したところで、後ろから黒髪の二人、射浜さんともう一人の女の子が駆け寄ってきた。
日本語で声をかけられ、シオン先輩とクリステル先輩は首をかしげていた。
この子、さっきもそうだけどこんなところで日本語で話しかけてくるとは……
僕も不思議そうな表情を取り繕い、振り向いた。
「貴女は……」
『君、やっぱり日本人でしょ?』
射浜さんの核心を付く言葉に反応しそうになるが、どうにか堪える。
「あの、外国の言葉でしょうか……?」
僕がとぼけると、射浜さんは困ったような顔をした。
もう一人の女の子は僕をずっと睨みつけている。怖い。
「ふぅ、ごめんね。君が私の故郷の人に似ていたから…… 私はエイム・イハマ。さっきの試合は完敗だったわ、決勝戦も頑張ってね」
「シリウス・アステールです。先程はありがとうございました」
「それでこっちが――」
「ミノリ・アオキです。単刀直入に言うと貴方に話があるのですが、今夜時間取れないかしら?」
こちらの子には日本人だってほとんど確信を持たれてるみたいだな。
そりゃ初見で銃の性質を見抜いちゃったし、疑われるよなぁ。
しかしこちらもこの二人について色々と知りたいこともある。
敵意もなさそうだし、ここは情報交換するのもありかもしれない。
営業スマイルを顔に貼り付け、二人を見る。
「分かりました、今夜時間を空けておきます」
「……助かるわ」
「ありがとね、シリウス君!」
二人は一礼し、ノルドの控室の方へ去っていった。
僕も戻るかと振り返ると、先輩達がニヤニヤしていた。
「シリウス君、モテモテだねぇ。今夜はお楽しみかな?」
「流石シリウスさんですわね」
「いや、そういうのではないですよ、きっと……」
僕は背後から感じる二人の視線に苦笑しつつ、早足で控室へ戻った。
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