第94話 日の本
ルークのことを気がかりに思いつつ、僕らは闘技場のベンチに到着していた。
低めの壁はあるが観客席からはほぼ丸見えであるため、ものすごく視線が刺さる。
大人数の前で何かをやることが苦手であるため、胃がキリキリと痛み始めた。
ちなみにベンチには少数人数の補佐を入れることができる。
特に補佐とかいらないだろうと三人で話していたのだが、魔導具について詳しく絶対に役に立つから入れてくれと凄まじくグイグイ来られたので、ボブ先輩も補佐としてベンチに来ていた。
先輩たちと会話して緊張をほぐしていると、どこからか懐かしい言葉が聞こえてきた。
『ねぇ、黒髪黒目の子がいるよ? もしかして――』
『――彼は有名な冒険者の息子らしいわ。確かに黒髪黒目は珍しいけれど、私達とは違うはずよ』
『そうなんだー。じゃあいっか』
『あなたねぇ…… 各選手の情報、もう忘れちゃってるんじゃないでしょうね?』
『だいじょぶ! 戦いに関するデータだけはきっちり覚えてるから! ……多分』
日本語かぁ、懐かしいな……
……日本語!?
バッと会話が聞こえた方向を見ると、ノルド国軍訓練学校のベンチであった。
フードを被っているためよく見えないが、手前に座っている二人組だ。
僕以外の転生者がいたのか……? ちょっと調べてみるか。
『洞察』を発動し、ステータスを閲覧した。
《
【名前】
【性別】女
【年齢】17歳
【種族】人族
【ステータス】
体力:530
気力:50
精神力:1000
魔力:50
【スキル】
『FPS Lv.3』
》
完全に日本人だな……
しかも名前まで日本語だし、もしかして転生ではなく転移かも知れない。
そして凄まじく低ステータスと聞いたこともないスキル。
一体何者なんだ……?
とりあえずまずはスキルを『解析』してみるか。
そう思った矢先、もう一人がこちらを振り向き、目が合ってしまった。
《スキル『解析』により、対象スキルの効果を確――妨害により『解析』に失敗》
クッ、バレた……!?
急いで目を逸らしたが遅かっただろう。
先程まで大きめの声で聞こえていた話し声も、小声になったのか聞こえなくなってしまった。
以前ベアトリーチェさんに指摘されたのだが、『洞察』と『解析』は魔力を介して発動しているため、高位魔術師には察知されてしまう恐れがある。
また発動には対象者を凝視しなければいけないため不審に思われることもあり、行使する場合は注意が必要である。
分かっていたはずなのに、あの二人から感じる魔力は微弱であるため大丈夫だと油断してしまった。
もしかして気づいた方の人は魔力を抑えているだけなのかも知れない。
色々と考え込んでいたせいか冷静さを欠いているな…… ちょっと頭を冷やさなければ。
「シリウス君、どうしたんだい? 緊張してるのかな?」
そんな僕の顔をシオン先輩が心配そうに覗き込んできた。
「いえ……いや、そうかもしれません」
「シリウスさん、大丈夫ですわ。私達もついていますもの」
いつの間にか頬を伝っていた汗を、クリステル先輩がハンカチで優しく拭ってくれた。
「ありがとうございます……」
実は試合とは関係ないことでかいた冷汗なんです、ごめんなさい……
しかし二人の優しい笑顔を見ていたら心が落ち着いてきた。
「さぁ、そろそろ時間だ。行こうか!」
「えぇ」
「はい!」
闘技場が歓声に包まれる中、僕ら三人とノルドの三人がステージに上がる。
相手は全員マントを身に纏っており、顔、体格、武器が見えない状態である。
ただでさえ視覚からの情報を遮断されているのに、試合前に解析することも出来なかったのは痛いな……
しかも事前の情報も全く入ってこなかった。
流石国軍訓練学校、情報統制が徹底されている。
一方こちらは、対策ごとねじ伏せろという脳筋学長だ。
前回の優勝メンバーであるシオン先輩はもちろん、今年入学の僕の情報まで全校にダダ漏れである。個人情報保護法なんてなかった。
「それではセントラル冒険者学校とノルド国軍訓練学校の試合を開始します」
「「「うおおおおおおお!!!」」」
試合開始のアナウンスが流れ、客席から大きな歓声が上がった。
ステージに立つとその歓声が全てこちらに向けられているためか、凄まじい圧を感じる。
セントラルの武道祭も中々の客数であったが、今回は桁が違う。
四校の生徒や教師、その親族だけではなく、一般市民、冒険者、貴族等様々な立場の人間が観戦に来ている。
先程シオン先輩に聞いた話では、アルトリア王国で催される武道大会の中でも三本の指に入る規模だそうだ。
こんな場所に立ったらストレスで吐くのではないかと思ったが、案外ここまでくると吹っ切れるものだな。
目の前の二人から凄まじい威圧を受け、胸が高鳴る。
……相変わらず
あぁ、楽しみだ。
今はもう、強者との戦いを楽しもうという気持ちしかない。
「それでは、試合開始!」
謎に包まれた強豪校、ノルド国軍訓練学校との戦いの火蓋が切って落とされた。
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