第78話 喫茶アステール

 武道祭の激戦を勝ち抜いた翌朝、僕はとある店で打合せをしていた。


 この度、トルネ商会と提携してオープンする喫茶店のチェックと調整のために竣工した喫茶店にトルネさんや喫茶店従業員の方々と集まっているのだ。

 ちなみに僕は商業ギルドに登録後にステラ商会という商会を立ち上げている。従業員は僕だけという一人会社であるが。

 そのため、便宜上この喫茶店はステラ商会とトルネ商会が提携してオープンするということになっている。


「シリウスはん、武道祭優勝ほんまおめでとさんです。いやー、お強いとは思ってましたが、その年齢で優勝してしまうとは流石に思わんかったですわ。これでこの喫茶アステールにも箔が付いたってもんですな! しかしあの激戦の翌朝から打合せにきていただけるなんて、少しは休んだ方がよろしいのでは?」

「ありがとうございます。学校が休みでも何かしていないと体がそわそわしてしまうので、こうやって働いているのが一番性にあっているんです。自分の目で確認もしておきたかったですしね。……ところでその、喫茶アステールってネーミングはどうにかなりませんかね?」


 実は直前まで店名が決まっていなかったのだが、トルネさんが提案した『喫茶アステール』という名前に従業員一同が賛同し、光の速さでトルネさんが看板まで作ってしまったのだ。

 せめて本人の了承を得てから看板を作って欲しかったと苦言を呈したが、適当に笑ってごまかされてしまっていた。

 もう看板も作ってしまっているので今更変える気も起きないのだが、それでも少し愚痴るぐらいは許して欲しい。


「ははは、シリウスはんはほんまに商人に向いてますなぁ。商人は稼いでなんぼさかい、わいも商機を逃したくなくて中々休めませんわ」


 この世界の商人は本当にブラックだ。一年中無休で働くなんてこともザラである。ちなみに喫茶アステールでは従業員を多めに雇いシフト制にすることで各人に休みを与えるようにしている。このシステムにもトルネさんは目を瞠っていた。

 僕自身一年中無休で働く程度余裕であるが、通常はある程度休みがあった方が従業員のやる気を引き出せるとは考えている。


 その点冒険者は気楽である。ある程度の強さがあって無駄遣いしなければ自由に暮らしていけるのだから。朝から飲んでいる人間は大抵冒険者だ。

 ……休みでも自ら働いてしまう自分は、確かにこの世界では商人の生活スタイルに近い。折角冒険者になろうとしているのに何故こんなに働いているのだろうとふと思うこともあるが、考えたら負けだ。

 特許や喫茶店経営で楽に儲けられるシステムを作っていけば将来は楽になるはずであるし、損はないはずだ。

 忙しいのは今だけ今だけ。


 そんなとりとめもないことを考えつつ、店の細かなレイアウトの最終チェックを行っていく。

 ちなみにこの店の設計やレイアウト、メニューは全て僕が監修している。大したことはしておらず、前世のカフェを真似ただけであるが……

 この世界の飲食店、酒場はとにかく乱雑であるため、前世の飲食店の上辺を真似るだけでもトルネさんには洗練されていると大絶賛された。


 店内はキッチンが来客者から見えるようカウンタースタイルにしている。

 カウンターはお一人様でも座りやすいだろう。

 また席は二人席、四人席を基本とし、人数が多いときは繋げられるように真四角のテーブルを配置。

 またフロアから外には大きな扉を設置し、そこからテラスに出れるようにしている。

 テラスは広めにして、テラス席をいくつか設けた。


 インテリアはやはり女性客が多いことが想定されるためポイントで女性らしいオシャレ可愛いインテリアを配しているが、男性でも入りづらくならないギリギリを攻めている。

 ここについては女性従業員から色々とアドバイスを貰いながら、いい感じに仕上がったと思う。

 あまり可愛くしすぎると男性客が入れなくなるので、このバランスが非常に難しかった。


 メニューはクレープに加えフレンチトースト、アイスクリーム、パフェ等、この世界で手に入る材料で作れ、自分でも作れるような簡単なスイーツをいくつか追加で特許登録してメニューに採用した。

 勿論、元々この世界に存在しているサンドイッチ等もメニューに入れている。


 これらのメニューを食べさせた時、従業員の子たちやネネさんは感涙を流し、トルネさんの目の中では金貨が輝いていた。

 僕も自分で作っておきながら糖による幸福感で暫く放心していたほどだ。


 ドリンクは本当はコーヒーが欲しかったのだが見つからなかったので、紅茶やフレーバーティ、またフルーツを漬けたデトックスウォーターを提供することにしている。

 デトックスウォーターはアンチエイジングや美白効果があると話をしたところ、エアさんやアリアさん、従業員の皆さんがお腹を壊すまで飲んでしまったという事件もあった。

 水にカットした野菜や果物をぶち込むだけなので作るのもメチャクチャ簡単だ。

 メニューにも美肌効果と書いているため、大量に売れる可能性を秘めていると思っている。


 細かなレイアウト、従業員の接客、スイーツやドリンクメニューの提供速度やクオリティなど一日かけて確認し、完璧だなと僕とトルネさんは満足気に頷いた。

 これで明日の開店への準備はバッチリだ。



「「「店長、おはようございます!!」」」


 翌朝店に入ると、メイド服を着た従業員たちが完璧な礼で出迎えてくれた。

 一応僕が店長ということになっているが、普段は店長代理と副店長が店を回してくれることになっている。僕は学生兼冒険者だしアドバイザーのようなものだ。


 ちなみに従業員の子たちは全員女性でメイド服着用である。

 綺麗どころが集まっており、非常に目が幸せだ。トルネさん、やるな。


 これだけ可愛い子が集まっているため悪い男が絡んでくることは容易に想像できるが、元Bクラス冒険者の子が三人もいるため、そこらのチンピラくらいなら余裕で撃退できる。

 しかも王都警備隊詰所が目と鼻の先にある立地である、早々無茶なことはされないはずだ。

 一応カウンターの裏側に王都警備隊がすぐ気づくように、押すと屋根から『炎球ファイアボール』が放たれる非常ボタンも設置している。

 中々高価な使い捨ての魔石であるが、従業員の安全には代えられない。



 開店時間数分前、店の前を見ると多くの人が並んでいた。

 宣伝等していなかったので、正直これは予想外だ。


 並んでいるのは十代中盤~後半程度の年齢の女性ばかりである。いくら女性向けを狙っていたとは言え、なぜここまで客層が偏っているのか疑問である。

 ちなみに一学年Sクラスのクラスメイトもその中にいる。クラスメイトについては僕が席の予約をしているので確実に座れるだろう。

 職権乱用? それくらいは許してくれ。


 店長である僕が扉を開け、後ろに並ぶ従業員一同と共に深々と礼をした。


「皆様、早いお時間からご来店いただき、誠にありがとうございます。絶品のメニューを取り揃えておりますので、どうぞお楽しみください。喫茶アステール、オープンいたします!」


「きゃー!!」

「シリウス様ァァァァ!!!」

「いやぁぁん! シリウス君を食べたいッ!!」


 僕が並んでいるお客様達に挨拶をすると、黄色い声援と拍手が湧き上がった。

 なんだ? どういうことだ!?


 疑問が頭を満たしたまま、お客様を店内に案内していく。

 クラスメイトを席に案内すると、皆が半眼で僕を見つめていた。


「シリウス殿、大人気ですな!」

「シリウスおめぇ、うらやましすぎるぞ……」

「はぁ…… 武道祭終わった後すごい騒ぎになってたけど、まさかこの店まで嗅ぎつけられてるなんてねー……シリウスも大変ね」

「シリウス君、開店おめでとう! その……武道祭、かっこよかったよ……!」

「クレープ早く食べたい」


 クラスメイトの話によると、どうやら武道祭を見た女子生徒や町娘達が殺到しているらしい。

 お店としては嬉しい悲鳴だけれども、周辺の迷惑にならないかだけが心配であった。

 クレープとデトックスウォーターを持って近隣の店舗に挨拶周りしたら笑って許してくれたけどね。

 むしろこんな美味しい物をありがとうって超感謝されたくらいだ。


 従業員たちは予想以上の混雑にてんやわんやである。

 僕はキッチンに入ったり皿洗いに入ったりと人が足りないところをカバーするよう動いていた。


 僕は慣れているので休憩無しで働き続け、どうにかして従業員たちを休憩に入れて一日が終了した。

 とりあえず平日になれば学校で女子生徒は減るとしても、従業員をもう少し増やした方が良いだろう。

 僕自身、学校や冒険者活動など色々とやらなければならないことが沢山あるためバリバリ店で働くこともできないからなおさらだ。


 店の片付けや締め作業を終えて従業員を帰した後にトルネ商会へ行って急遽従業員の増員について打合せをし、結局帰宅できたのは日付が変わる頃であった。

 昔を思い出すほど充実した一日だったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます