第77話 学園最強

 言うが早いかシオン先輩は凄まじい気力を込めて真下に拳を振り抜いた。

 シオン先輩のパンチを受けた闘技場の床は粉砕され、大小様々な破片が宙を舞う。

 更にそこへ先輩が懐から布袋を取り出し、その中身をぶち撒けた。キラキラと光っている、小さな金属片のようだ。


「『螺旋駆動スクリュードライバー』!!」


 先輩が両手を広げて気力を周囲に放出すると、粉砕された床材の破片が先輩の周囲を回転しはじめた。更にその破片自体も回転をはじめる。

 さながら惑星の公転と自転のようだ。

 一気に闘技場中の破片が集められ、シオン先輩の姿が周囲を回転する破片によってほとんど見えなくなった。


 僕が土魔術によって硬化させていた床材は、金属レベルの硬さを誇る。おまけに土弾には雷魔術が効きづらい。

 しかもシオン先輩が撒いた金属片も混ざっている。


 それが凄まじい速度で回転しているのだ。当たればただじゃ済まない。


「『流星群メテオストリーム』!!」


 シオン先輩が叫ぶと、まるで重力から解き放たれた隕石のように回転した破片が射出された。


 放射状に壁のごとく飛来する破片を見ながら、『瞬雷ブリッツアクセル』で加速させた思考を即座に巡らす。


 攻撃魔術、到達する前に土弾を全て消滅させられるか分からない。

 防御魔術、今使ってもジリ貧であるため緊急防御手段に取っておくべきだ。

 刀で迎撃、急所だけならば可能だろうが全てを受けることは不可能だ。

 回避、放射状に面で攻められているため避けきるのは難しいだろう。

 空間転移、この大勢の前では使いたくない。


 ……いや、待てよ。穴があるじゃないか!


 すかさず『白気纏衣』を行使し、『白気ビャッキ』を身に纏う。

 そして『流星群メテオストリーム』のである上空へ跳躍した。

 直上に『空歩』により足場を生成し、シオン先輩の真後ろへ跳躍、着地する。

 左手を地面に着けてなんとか着地の勢いを殺しつつ、右手を前に出し魔力を解き放った。


雷極砲アブソリュートスパーク


 単体攻撃最強クラスの威力を持つ雷系統上級魔術『雷極砲アブソリュートスパーク』による眩い光がシオン先輩を包む。

 認識されないほどの速度で回り込んだ死角からノータイムで放った上級魔術。流石に先輩でもこれは厳しいはずだ。


 しかし予想に反して、二十秒ほど経ち光の奔流が収まる頃になっても勝負終了のゴングは鳴らなかった。

 光により目視できないため『物理探知』により先輩の位置を確認すると、先輩は闘技場の障壁に密着するように座り込んでいるようだ。

 先輩の周囲には気力が渦巻いており、なおも『螺旋駆動スクリュードライバー』で身を護っていることが窺えた。


 正直これを背後から受けても生きているなんてバケモノすぎるぞ……

 非情で申し訳ないが、油断せずにとっとと終わらせる……!


 光が収まると同時に縮地で先輩に急接近する。

 そしてその勢いを殺さずにそのまま胸元へ向けて突きを放った。

 突き出す刀に逸らすような力を感じるが、抵抗虚しく一瞬で黒い刀は先輩の体へ吸い込まれていった。



「あー……彼奴に『白気纏衣』を教えたのはやりすぎたかの……いやでも、あんなに早く身につけるなんて誰も思わないじゃろ。そうじゃ、仕方なかったんじゃ……」

「……何をぶつぶつと呟かれているんですか?」


 特別観戦席で決勝戦を見つつ、つい気持ちが口から溢れる。

 それを聞いた隣に立つ黒スーツを身に纏った秘書が呆れたようにそれを指摘してきた。

 小さく息を吐き、ヴィオラへ問いかける。


「お主、シリウスの動き見えておったか?」


 ヴィオラはその質問にピクリと小さい反応を示し、数秒の間を開けて答えた。


「ギリギリ……と言ったところでしょうか。目の前であの速度で死角へ移動されたら追えないかもしれません」


 だろうな、と想定通りの回答に満足して頷く。

 Sランク相当の力を持つヴィオラを持ってして、ギリギリ追えるかどうかという速度。

 正直、妾でも魔術で動体視力を強化していなければ見えなかっただろう。

 雷魔術による身体強化と白気を身に纏ったシリウスの動きはそれ程の速度であった。


「くっくっ……全く、末恐ろしい奴じゃな」



「「「…………」」」


 会場は静寂に包まれていた。


「え、な、え!? あっ…………し、勝負あり!! 目にも留まらぬ戦いを制し決勝戦を勝ち抜いたのは、一学年シリウス・アステール選手です!!! 武道祭史上初の一学年での優勝者が誕生しました!!!」


「「「「うおおおおぉぉぉぉ!!!」」」」


 会場が今までで最高の大歓声に包まれた。


 最初はこんな目立ちたくないと思ってんたんだけどな、と数日前の自分を思い出して苦笑する。

 いざ戦ってみると、本当に楽しかった。

 まさか優勝できるとは思っていなかったけれども。




 国王陛下に呼ばれ、壇上に上がる。緊張がヤバイ。

 壇上には国王陛下、第三王女のシャーロットさん、そして学長であるベアトリーチェさんが立っている。


 豪華に装飾されたキラキラと輝く剣を持ったシャーロットさんが一歩前に出てきた。


「武道祭優勝者、シリウス・アステール殿」

「はっ!」


 僕も一歩前に出て、跪く。


「素晴らしい戦いで、思わず見惚れてしまいましたわ。貴方の強さでこの国を一層豊かにしてくれることを願っています」


 シャーロットさんは凛々しくも可愛らしい笑顔を浮かべて続ける。


「武道祭優勝の証に、この宝剣を授けます。これからのシリウス殿の活躍に期待しています」


 差し出された宝剣を受け取る。

 非情に軽く、また魔力を帯びており僅かに光っているようにみえる。とても美しい剣だ。

 ただし実用性はない模造剣のようだ。トロフィーみたいなものだろう。


「ありがたき幸せ」


 剣を受け取ると、会場はまたもや割れるような大歓声に包まれる。

 シャーロットさんはとても嬉しそうにこちらを見つめており、国王陛下とベアトリーチェさんも満足げに微笑んでいた。


 この日から僕は【学園最強】という全くいらない称号を手に入れ、否が応にも注目を集めてしまうのであった。

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